圧倒的大多数にリーチできるテレビ媒体をDXする「テレシー」の代表取締役の土井健に話を聞いた。
広告業界ではいち早くDXの波が押し寄せ、多くの企業が、テクノロジーによる効果測定が可能なインターネット広告へと軸足を移した。しかし、テレビCMはデジタル化の波に立ち後れ、アナログ的な世界観がいまなお続いている。
そうしたなか、2019年に地殻変動が起きた。電通グループの広告企業「サイバー・コミュニケーションズ」と、アドテクノロジー企業「VOYAGE GROUP」が、経営統合を果たしたのだ。つまりテレビCMのリーディングカンパニー・電通とアドテクの雄・VOYAGE GROUPが手を組んだ。そうして生まれた「CARTA HOLDINGS」のまったく新たな広告ポートフォリオを構築できる仕組みが「テレシー」である。
土井 健 テレシー 代表取締役
「テレシー」はテレビCMのデジタル・トランスフォーメーション
アドテクの世界で8年、ターゲティングを行い、効果をもとにすぐにチューニング可能なネット広告の世界で生きてきた土井は、テレビCMを手がけるようになって、その旧態依然な効果測定方法に驚いたという。
「テレビCMのキャンペーンがすべて終わった後にまとめてデータを知らされるという即時性のなさ。ときにはレポートさえない場合があり、GRP(延べ視聴率)がわかるのみという状態は、まさにアナログの世界だと感じました」
その一方で土井は、テレビCMならではの一気に圧倒的大多数に向けてリーチできる力に、大きな可能性を見いだしたという。
「まず、たくさんの人に見られるテレビCMは、新たなターゲットの獲得に秀でています。ターゲットを絞ったネット広告では、長期間運用することで、同じユーザーに重複表示することになり、効果が頭打ちになることもあります。しかしテレビCMは、たとえば30代男性を想定ターゲットとしていたとしても、40代女性に反響があるという潜在層を拡大的に開拓する効果もあるのです。
またどんなに巨大なネットメディアだとしても、1日で6,000万人にアプローチすることは不可能ですが、テレビCMならばそれが可能で一気に伝わる。まさにマスメディアの力をもっているのです」
他にも副次的な効果としてあげられるのが、広告主や事業に携わっている人々への好影響。社員のモチベーションやロイヤリティの確保、人材獲得にも効果を発揮しているのだという。
「こうした魅力があるのにもかかわらず、効果測定の面が弱かった。そこでテレビCMのDXが必要だと閃いたのです」
「テレシー」は、アドテクのノウハウを活用し、通常のGRPレポートに加え、CPA(新規顧客の獲得単価)はもちろん、モバイルアプリ向けマーケティングプラットフォームを展開する「Adjust」「AppsFlyer」との提携により、放映エリア毎のCPI(アプリのインストール数に応じた収益発生)まで、事業成長にダイレクトにヒットする指標の提供を可能にしている。つまりネット広告とテレビCMの"いいとこ取り"のシステムを生み出しているのだ。
「さらに放映前のシミュレーションにより、ターゲット含有率/インプレッション発生数/想定UUなどが予測可能になっており、これまでテレビCMを手がけていなかったとしても予算の割り振りがしやすい、新たな仕組みを構築しました」
いままでテレビCMの力を活用していなかったクライアントへのアプローチ
「テレシー」のサービス開始当初は、これまでテレビCM出稿を意識していなかったスタートアップ企業の反響を予測していたと土井は言う。
「ネット広告の予算の一部を、これまで利用していなかったテレビCMに使う提案を行ったのです。100万円からできると謳っている通り、低予算で可能なことをクライアントに伝えると、みなさん非常に驚かれますね。クライアントの大多数は、そもそも可能性さえ検討してないことも多く、コストパフォーマンス面でも優秀なことを伝えると、俄然興味がわいてくるようです。
その一方で、テレシーの革新性に評価をいただき、大企業の活用も増加しています。こちらは意外でした」
テレビCM出稿自体がはじめての企業でも、プランニング、制作、効果測定と次回プランニングへの活用方法などの制作工程、業態考査・登記簿準備など手続きまで、一気通貫のサポートを実現する「テレシー」。まさに至れり尽くせりである。
「もちろんネット広告への出稿を、すべてテレビCMに切り替えたらよいという単純な問題ではありません。むしろ注目すべきは同時に行うことによる相乗効果です。テレビCMの放映地域では、放映していない地域よりもネット広告のクリック率が明確に上がることもわかっているからです」
ここまではクライアントベースの目線で語っていた土井。しかし消費者へのメリットもまた見逃せないと語る。
「ネット広告だけでは日の目を見なかった商品・サービスでも、より多くの消費者が見つけられるようになる。それがこの仕事のやりがいですね」
1年で70倍、四半期売上9億円を突破した「テレシー」の可能性
こうした「テレシー」の運用型テレビCM市場の開拓が成功し始めていることは、わずか1年で70倍、四半期売上9億円を突破した実績からも見て取れる。ではこの先「テレシー」は、どこへ向かうのだろうか。
「考えなくてはならないのは、ネット広告もまた安泰ではないタームに入っていることです。欧州のGDPRや、ITPなどの流れを受けたデータ活用規制は、ネット広告にとって大きな逆風です。クッキーが利用できない日が来るとは、誰も予想していなかったと思います。だからこそ広告戦略もまた複合的な視野で構築する必要があるのです」
そのひとつ目のチャレンジがテレビCMだが、土井の視線はすでに他のアナログ手法の媒体にも向けられている。
「たとえばタクシー広告であり、エレベーター広告。実はこれらのシェアは私たちが業界トップとなっています。さらに美容室などの様々なデジタルサイネージも含めて、まだまだ可能性は限りなく残されています。目指すはすべてのアナログ広告のDXです」
商品やサービス、企業の特性に合わせて、さまざまな媒体を含んだポートフォリオを組むこと、それが「テレシー」が未来に向けて打つ強力な一手である。
「今後はテレビCMの可能性に気づいた企業が続々市場に参加していくことが予想されます。そうしてビジネスが伸びていくことで、消費者の暮らしも豊かになり、日本経済が伸びていく。テレシーがその牽引力となることができれば、うれしいですね」
テレシー
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土井 健◎同志社大学商学部卒業後、サイバード入社。2011年、ECナビ(VOYAGE GROUP/現CARTA HOLDINGS)入社。14年にVOYAGE GROUPの執行役員、16年にfluct代表取締役を経て20年にVOYAGE GROUP取締役、21年にサイバー・コミュニケーションズ取締役及びテレシー代表取締役に就任。