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アフター・コロナの世界で、オフィス空間はどうあるべきか。野村不動産が、そのソリューションとして提案するのが、入居企業の戦略や成長に応じたワークプレイスの戦略的ポートフォリオのさらなる強化だ。

同社では、小規模スタートアップにも対応する「H¹O(エイチワンオー)」、大規模ビルと同等のクオリティをもつ中規模オフィスビル「PMO(ピーエムオー)」、そして従量課金型制で利用できるサテライトシェアオフィス「H¹T(エイチワンティー)」を都内・大阪を中心に展開する。

今回は、それらのオフィスのなかから、渋谷区と官民連携で、スタートアップの育成を支援する「H¹O」の取り組みにスポットを当てた。

若者文化の発信地・渋谷は現在、100年に一度といわれる大規模再開発を追い風に、IT関連やスタートアップ企業の「聖地」になりつつある。その躍動感のなか、コロナ禍を経たスタートアップたちのオフィス事情はどう変化したのか? スタートアップが抱える課題とは? それに応える「H¹O」のソリューションとは?

渋谷区のスタートアップ・エコシステム構築を担うプロジェクトリーダー・田坂克郎、Tokyo Work Design Weekオーガナイザーでスタートアップ支援の有識者でもある横石崇、そして「H¹O」の立ち上げに深く関わり現在もその中心にいる野村不動産 都市開発事業部 桑原利充。タッグを組む3人が「H¹O渋谷神南」のラウンジに集い、それぞれの思いを語り合った。


「渋谷区×野村不動産」でスタートアップの成長を支援


──アフター・コロナの世界へ向けて世の中が動き出しているなか、野村不動産が渋谷区と官民連携でスタートアップ支援を始められました。きっかけは何だったのですか。

桑原利充(以下、桑原):渋谷は、みんなでスタートアップが生まれる街、働きやすい街にしようとする熱量がものすごくある。スタートアップの成長を支援するオフィス開発を行なう我々にとって、渋谷区の取り組みは極めて親和性があり、H¹Oも「場」という観点で貢献できるのではないかとずっと考えていました。それで、以前からH¹Oへのサポートをしてもらっている横石さんに相談して、田坂さんを紹介いただきました。

横石崇(以下、横石):渋谷という都市はスタートアップにとっても大企業にとってもユニークで刺激的な街です。そこに桑原さんたちが新しく参入して場をつくっていくと伺ったときに真っ先に思い浮かんだのが田坂さんでした。田坂さんほどに渋谷区をスタートアップ都市にするために世界中を駆け回っている人はほかにはいませんから。双方が社会課題解決型のプロジェクトでタッグを組むことにすごく意義を感じました。


横石崇 &Co.代表取締役/Tokyo Work Design Weekオーガナイザー

──田坂さんは、産官連携のもとにスタートアップの育成を支援するコンソーシアム「Shibuya Startup Deck(通称:シブデック)」の運営をされています。設立の経緯を教えてください。

田坂克郎(以下、田坂):もともと渋谷区のスタートアップの部署は、渋谷を国際的なスタートアップの街にするという目的で2020年1月に活動が始まりました。最初に、区内のスタートアップ企業150社にアンケートを取り、「渋谷区は何をしたらいいか」と聞いたところ、最も多かったのが「与信課題」でした。スタートアップが一般に知られていないため、オフィスを借りられないとか、融資を受けられないとか。まずはそういう問題を解消してほしい、という内容でした。

私自身も、20代、30代のほとんどをカリフォルニアのシリコンバレーで過ごし、スタートアップのシーンをみてきましたが、日本のスタートアップが抱えるような問題は一切なく、自分の事業に集中していました。渋谷は日本国内ではトップのスタートアップ集積地といわれているけれど、まったくスタートアップフレンドリーな環境がないなと。これは早急に環境を整備しなければいけない。そのためには、金融、法務、不動産など多くの企業との連携が欠かせないと判断し、コンソーシアム「Shibuya Startup Deck」の設立に着手しました。


田坂克郎 渋谷区 グローバル拠点都市推進室長

──6月から9月まで、野村不動産と連携して、女性起業家を支援するプログラム「Women 1st Office in Shibuya (W¹O)」を実施されていますね。

田坂:はい。「H¹O渋谷神南」を女性起業家の支援拠点として提供していただき、約4カ月間、共に働きながら共に成長できる空間を実験的につくっていきました。コロナ禍でスタートアップ支援に対してブレーキを踏むところが多いなか、むしろアクセルを踏んでいる野村不動産さんがいる、というのは、我々にとってすごくありがたいことです。

桑原:起業家さん同士の交流をはじめ、弁護士さんとの相談会やベンチャーキャピタルの方々との交流会など、仕掛けも結構つくりましたね。当社も参加企業さんといろいろと話をさせていただき、結果として、プログラム終了後も2社がH¹Oに入居し続けています。どちらも従業員の方の働き方をすごく大事にしている経営者の方でしたが、これまでコワーキングや間借りということでオフィスの課題をたくさんおもちでした。実際にH¹Oを体験され、共有スペースの充実や専有個室など、セキュアでグレード感の高い環境に価値を見出されたようです。

田坂:「場」の力もありますよね。みなさんリラックスしながら交流を深め、心を開いて相談する姿が印象的でした。いろいろな広がりが生まれたのではないかと思います。

「壁を低く」「柔軟に」エコシステムを構築する


──横石さんは、働き方のスペシャリストとして、スタートアップ支援に必要なエコシステムをどのように考えていらっしゃいますか。

横石:エコシステムというのは、「壁を低くできること」だと認識しています。先ほど田坂さんがおっしゃったように、いざ新しいことを始めようとしても壁だらけなんですね。壁には大きく3つあって、基盤、制度、感情の壁が立ちはだかります。必要な通信環境が整っていなかったり、ルールや商習慣が邪魔してできなかったり、周囲から反発が強かったり。

例えば、電動キックボード。これは、街の道路整備と法制度、住民の賛同、3つ揃わないとできないのですが、渋谷というのは官民が近い距離にあるので、大都市なのにも関わらず結構スピーディーにできるんですね。例外がつくりやすい、という街の文化的な遺伝子がある場所だと思います。ですから、スタートアップのエコシステムモデルを渋谷からつくる、というのは、理にかなっていると思います。

桑原:オフィスを提供する側としては、まず入居時のハードルを下げなければならないというのは我々も重々承知しています。H¹Oは原則、保証会社と契約することで、敷金を不要にしていますし、業績が赤字だと入居できない、といった制約もありません。

もうひとつ、柔軟性でいうと、入居後の事業の可変性に耐えうるオフィスであるという点が挙げられます。この物件の場合、館内に大小50部屋ぐらいあるのですが、企業の成長や経営方針に合わせて、小さな部屋から大きな部屋へ、またその逆の移動が可能ですし、間仕切り壁も可変な造りになっているので、壁を取り払ってスペースを拡張することも可能です。

──さらに規模が大きくなったら、中規模オフィスの「PMO」に移ることもできますね。

桑原:そうですね。3部屋借りるとコスト的にもそちらの方が望ましいです。同じ建物内にPMOとH¹Oが共存する物件もありますので、移動もスムーズかと思います。もしくは、メインオフィスはPMOに構えて、プラスオンでH¹Oを使っていただくパターンが最近は多いですね。H¹Oにご契約いただければ、PMOにはない共用ラウンジや会議室などを使えるところにところに価値を感じていただいているのだと思います。まさに、オフィスのポートフォリオを戦略的に設計する企業様が増えてきたと実感しています。


桑原利充 野村不動産 都市開発事業部 ビルディング事業一部 事業企画課

「新しい価値づくり」を促進する、コロナ後の働き方とは?


──コロナ禍を経験して、働き方やオフィスに対する考えが大きく変化していると思います。スタートアップ企業においてはどのような変化があるのでしょうか。

田坂:オフィスを解約したスタートアップ企業は非常に多かったですね。そんななかで、シブデックでは、実験的に、公共のワークスペースをスタートアップに開放したのですが、予想以上に多くの方が利用されて。家で仕事をすることに疲れを感じ始めたとか、出会いの場を求めているとか、背景にはそういう理由がありました。

現在は、少しずつオフィスに対する意識変化が顕れていて、日常的に使うというよりは、「たまに来て、人と話すためのオフィス」を求めていると感じています。いわゆる、リモート×出社のハイブリッド型なのですが、これまでと目的が変わってきていますね。

横石:スタートアップに限りませんが、「オフィスに求めるものがより先鋭化された」と言えるのではないでしょうか。いままではオフィスに行く理由とか、オフィスの機能や役割ということを、誰も深く考えなかったと思うんです。当たり前のように朝起きて電車に乗ってオフィスに向かっていたわけですから。コロナ禍で加速したのが、「オフィスに行く目的の明確化」。それがいまイシューになっていますね。

桑原:私もそれはすごく感じますね。目的、場所の用途など、ほとんど思考停止でオフィスに通っていました。でも、いったんフルリモートを経験して価値観がものすごく変わっているというのは、お客様と接していて肌で感じることです。「やっぱりオフィス大事だよね」や「会って話すことの重要性」が再認識されています。

横石:マイクロソフトのある調査では、リモートワークによって個業化が進んだ結果、生産性が下がり、イノベーションを脅かすと示唆しています。なぜかというと、「新しい価値」というのはひとりからは生まれてくるわけではなく、チームでワークすることによって生み出されるものだから。行き過ぎたリモートワークを避けて、「集まる」ことを組み込んだ「価値の掛け算」を行い、社会実装へと発展していくことが求められるのはないでしょうか。

※調査にまつわる記事=https://www.nature.com/articles/s41562-021-01196-4

田坂:私の場合は官民連携が仕事ですから、完全に、会わないと無理という感覚ですね。実際に他業種連携で半年ぐらいのオフィス共有で見えてきたのは、企業と企業ではなく、人と人の関係ができてくると、大手もスタートアップも関係がなくなり、様々なプロジェクトが生まれる「価値の掛け算」が起こっていると感じます。




H¹O渋谷神南 1階エントランス


H¹O渋谷神南 共用ラウンジの一角

──アフター・コロナを見据える中、野村不動産のPMOやH¹Oでも、オフィスに対する需要が高まっているのでしょうか。

桑原:はい、ワクチン接種が進んでいることもあり、夏ぐらいからオフィスを検討していた方々が、いよいよ意思決定をされるタイミングにきています。

オフィスの探し方にも変化が現れていて、30人の会社でも、全員分の席は不要、という考え方が定着しつつあります。私たちも、実質的に必要な席数をもとに提案しますし、そういう計画のない企業には、むしろこちらから、「コスト削減とかマイナスの考え方ではなく、効率化を図りませんか」と提案を心がけます。また、この先1~2年の採用計画をお聞きして、その計画にオフィスが足かせにならないように各企業に合ったオフィス戦略を一緒に考えます。さまざまな角度から企業の成長を共に考える、というのも我々の役割です。

横石:企業の成長には「新しい価値づくり」が極めて大切で、その実現のために必要なのが、「事業戦略」と「組織能力」です。事業戦略だけでは絵に描いた餅で、うまくいかないスタートアップは多い。ではいかにして組織能力を高めるか。そこにオフィスの重要性があります。「自分の居場所」を自分たちで選んで、誰とどう働くかを設計していく。新しい組織能力を獲得するためにも、コロナ後の働き方において非常に重要な部分だと思います。

スモールスタートでいい。螺旋状に成長を続けていく


──コロナ後の新しい働き方を受け、H¹Oが果たすべき役割は何だとお考えですか。

桑原:当社のオフィス事業は、人を起点とする「ヒューマン・ファースト」をコンセプトに展開し、サービス付き小規模オフィスH¹Oは、第一弾の「H¹O日本橋室町」(2019年11月開業)を皮切りに、現在、都内9カ所、大阪1カ所に拠点を拡大しています。

誰もが自分らしく働ける「人間中心のオフィスをつくる」という信念のもと、セキュアで快適な空間やABW*しやすい工夫など、デベロッパーの持てる力を最大限に注ぎ込んだハード(建物)とソフト(サービス)は、比類ない質のよさを宿していると思っています。また、H¹Oを新しい価値とみなし、柔軟に活用してくださっている入居企業の方々は、多彩な才能にあふれていて、それが我々のエネルギーにもなっています。

次の課題として検討しているのはは、オフィス内での「コミュニティづくり」ですが、誰もが求めるかというとそうではないため、あえてガッツリとつくってきてはいません。ただ、私自身こうやって人との出会いが好循環を生むという経験はしてきているので、トライ&エラーでどんどん試して、ダメなら反省して、次に生かす。小さな成功体験を積み重ねて螺旋状にステップアップしていきたいと思っています。

田坂:思うに、H¹Oは家のような存在なのでは。まずは落ち着く家があって、ちょっと外へ出かけると、あんなこと、こんなことがあって、ふとしたきっかけで新しい何かが始まる。共用ラウンジで、H¹Oの仲間同士、打ち解けるのにそれほど時間はかかりません。

横石:それはある意味、パーパスの共有ともいえるかもしれません。自分たちらしい働き方を主観的に考え、同じ価値観のもとに多様なメンバーが集まり、各々がアンテナを高く立てているからこそ自然発生的にイノベーションの芽が育ってくる。そういったコンテクストが、H¹Oにはありますよね。

桑原:そう思います。だからこそ、質のいいものが必要なんです。H¹Oの人同士のつながりだけでなくPMO、行政、ベンチャーキャピタルなど、いろいろな方とのネットワークをつくり、スタートアップ支援のエコシステム構築にも貢献したいと思っています。おふたりのアドバイスも重要です。これからもよろしくお願いします。

(後記)
「開発者が思いを注ぎ込んだとき、建物にも気持ちが宿る」。H¹O渋谷神南の空間に立ったときに思い出された言葉だ。無言の対話が心地いい。W¹Oの期間中、H¹Oは多くのアイデアを受け止め、起業家たちを見守り、勇気づけていたに違いない。H¹Oを味方につけて、渋谷はスタートアップフレンドリーな街へ本気で変わろうとしている。

H¹O
https://h1o-web.com/


H¹O渋谷神南 「HUMAN FIRST SALON」

*ABW:アクティビティ・ベースド・ワーキングの略。「時間」と「場所」を自由に選択できる働き方のこと


【連載】 Innovative Destinationーイノベーションを生み出す「目的地」へー

#1 公開中|少数精鋭の企業で働く人に「最適な場」を。「H¹O」がオフィス環境にイノベーションを起こす
#2 公開中|HUMAN FIRSTなオフィス環境が、イノベーションを生む新時代のワークプレイスに。
#3 公開中|求めたのは、いままでの常識を破るオフィス。SUBARUが「H¹O」でエンジニアのワークプレイス改革に突き進む
#4 本記事|アフターコロナへ向けて変化するスタートアップのオフィス需要。 誰もが自分らしく働ける「ヒューマン・ファースト」の定義とは
#5 coming soon...
#6 coming soon...


くわばら・としみつ◎中規模ハイグレードオフィス「PMO(ピーエムオー)」の開発用地仕入に従事した後、従業員10名未満の小規模オフィスマーケットのニーズに対応した新しいオフィスブランド「H¹O(エイチワンオー)」を立ち上げ。メインオフィス・サテライトオフィス・在宅勤務など働く場を組み合わせ、効率化・分散化を推奨するオフィスポートフォリオの考え方の元、事業戦略・商品企画、顧客提案を実行。

よこいし・たかし◎多摩美術大学卒。広告代理店・人材会社を経て、2016年に&Co.を設立。ブランド開発や組織開発を手がけるプロジェクトプロデューサー。主催する国内最大規模の働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」では3万人の動員に成功。鎌倉のコレクティブオフィス「北条 SANCI」支配人。法政大学兼任講師。著書に『これからの僕らの働き方』(早川書房)、『自己紹介2.0』(KADOKAWA)がある。

たさか・よしろう◎2020年1月渋谷区入区。スタートアップ・エコシステム構築と渋谷区の国際化を担当する。サンフランシスコ日本領事館での8年半の勤務を含め、長年サンフランシスコ・ベイエリアで非営利団体の設立等さまざまな活動に従事。2018年帰国後は東北のスタートアップ役員職を経て、小松製作所に入社。同社が設立したベンチャー・ランドログで副社長を務める。「海外」「大手」「スタートアップ」での経験を活かし渋谷区のスタート・エコシステムに貢献する。

Promoted by 野村不動産 / text by Sei Igarashi / photographs by Shuji Goto / edit by Akio Takashiro

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