一方で、感染対策に各国が大規模な財政出動を行ったことでインフレが起こり、暗号資産の価格高騰が発生。そこで膨らんだ投資性資金がNFTへと流れ込んだことで、空前のNFTブームが巻き起こった。さらにブームのなかで、NFTの技術的特性がデジタル経済圏の創出に直結することが広く知られるところとなり、ユースケースが多様化していく。
このように、コロナ禍を起点とするドラスティックな情勢変化が、かねてから多くのファンと技術者によって支えられ線形に発展してきたメタバース1.0文化圏と交わり、フェイスブックの社名変更をきっかけに、「メタバース2.0」へと収斂しようとしている。
メタバース1.0に期待されているのは、バーチャルであるという魅力をフルに発揮したゲームコンテンツやコミュニケーションの喜び、アバターへ変身する面白さだった。
一方のメタバース2.0では、コンテンツやゲーム、コミュニケーションだけでなく、小売や広告、金融など様々なステークホルダー間のシナジーにより大きな期待が寄せられている。
無論、メタバース2.0が真にユーザーに必要とされるかは未知数だ。両者の違いは優劣ではなく期待されているものの差であり、今の情勢を踏まえて後者に期待するビジネス上の潮流が強まっている、という状況にすぎない点は留意すべきだろう。
経済活動の多くはデジタル空間へ移行可能に
では、こうしたメタバース2.0への期待がなぜここまで大きく膨らんでいるのか。単に「コロナ禍の影響でデジタル空間への期待が高まった」という話に留まる潮流なのだろうか。
筆者は、これまで無価値とされてきたデジタル空間での出来事が、ブロックチェーンとNFTによってすべてリアルな経済活動となり、アナログ商圏へも影響を及ぼすと考えている。
例えば、ナイキやアディダスなどスニーカーブランドは、既にバーチャルショップでNFTの出品を実施している。これは従来の限定スニーカーなどと同様に数量限定の商品だ。この商品をアバターに装着することは正当な購入者しかできない。さらに、メタバースでの行動をVRで追体験する場合、UX(user experience=ユーザー体験)は現実世界の購買行動とほぼ同じになる。
つまり、これはデジタル化による流通販売経路の変革ではなく、消費シーンや生活体験というライフスタイルの変革を引き起こすものなのだ。
そのため企業は、メタバース2.0の「デジタルだがリアル」という性質を前提に、既存の考え方から180度転換して新しいビジネス手法を考える必要がある。それゆえに何のしがらみもない新しいプレイヤーには参入機会のある領域になるだろう。
スマートフォンが普及したときと同様に、メタバース2.0は生活の一部をデジタル空間に切り取っていくものになる。実際にコロナ禍の若者たちは友人間のコミュニケーションを「どうぶつの森」や「PUBG(PlayerUnknown’s Battlegrounds)」などのゲーム内で行っており、これがメタバース2.0に置き換わる未来はそう遠くないかもしれない。
これからは、メタバースをキーワードに、ライフスタイルに寄り添うコンシューマ向けビジネスが盛り上がる時代が到来すると考えている。
記事内容の一部に誤りがあったため、修正いたしました。お詫び申し上げます
連載:ブロックチェーンビジネス最前線
過去記事はこちら>>