経済・社会

2021.12.10 20:00

元新聞記者の精神科医が見た「護られなかった者たち」の水際

(c) 2021映画「護られなかった者たちへ」製作委員会

(c) 2021映画「護られなかった者たちへ」製作委員会

コロナ禍はオミクロン株が世界中を席捲しつつあり、新たな局面に入った。水際作戦は重要だが、わが国にもいずれ第6波はやってくる。年越しを前にして、長引く景気低迷などの影響で増加が続いた生活保護をめぐる“もうひとつの水際”について考えてみたい。
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映画「護られなかった者たちへ」の重厚さ


先日、久しぶりに映画を観に出かけた。

「護られなかった者たちへ」(瀬々敬久監督、全国で上映中)。

作家の中山七里氏による同じ題名の原作を映像化した作品。
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東日本大震災から10年後の仙台で連続殺人事件が発生した。阿部寛演じる担当刑事と容疑者利根泰久役の佐藤健を軸にストーリーは展開する。だが真犯人は別にいたという社会派ミステリー、という要約では言い尽くせない重厚な内容だった。


(c)2021映画「護られなかった者たちへ」製作委員会

事件の被害者2人はかつて同じ福祉保健事務所に勤めた男性職員。児童養護施設で育った利根容疑者は震災で家族を失った老女、少女と出会い、しばらく3人で家族のように暮らした。ところが皆が別れた数年後に老女が困窮。生活保護を求めて3人で福祉事務所を訪れたのに、職員から体よく断られた末に老女が衰弱死したのが事件の始まりだった──。

この映画のテーマとなった「生活保護」について、これまで深く考えたことがなかったという佐藤健はこう述べている。

「制度の矛盾や問題点に焦点を当てた物語をすごく新鮮に感じました。理不尽なものに対する怒りや悔しさは、我々も普段生きていて、利根ほどでないかもしれないけど感じるってことあるじゃないですか。それを代弁して観ている方に共感してもらうことが今回の自分の使命」


(c)2021映画「護られなかった者たちへ」製作委員会

増える、「生活保護バッシング」?


物議をかもした菅前首相の「自助・共助・公助」発言の公助とは「公的扶助」の略で、その最後のセーフティ・ネットが生活保護だ。

生活保護は最低生活の保障と自立の助長を目的とした制度で、その申請は国民の権利。保護の必要な可能性は誰にもあり、ためらわずに自治体まで相談をと、厚労省はHPで呼び掛ける。その根拠は日本国憲法25条第一項「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」。社会権の中心であり、元はドイツのワイマール憲法に淵源をもつ。

ところが現実には映画のように様々な障壁が立ちはだかる。

記憶に残るのは2012年、お笑い芸人の母親が生活保護を「不正受給」しているとメディアに取り上げられた事件だ。実際には法的問題はなかったのだが、道義的問題のすり替えが行われたようにみえる。保護費がパチンコなど遊興費に充てられる状況などから「正直者がバカを見る」仕組みという論調が広まった背景があるのだろう。以来、「生活保護バッシング」が増えたといわれる。

だが、実際の「不正受給」は受給者全体の0.4%程度であり、わが国の生活保護利用率は1.6%で、ドイツ、イギリスの9%台と比べてもはるかに低い(2012年「生活保護対策全国会議」調べ)。

「ヒラメ裁判官」と「いのちのとりで裁判」


2013年に生活保護法は改正され、その2年後をピークに受給者数は減少に転じた。

受給額も減らされている。生活保護には教育、医療など8種類の扶助があるが、そのうち日常の生活費にあたる生活扶助の基準が切り下げられ、平均6.5%、最大10%減額された。これに対し、全国29の地方裁判所で基準切り下げの行政処分取り消しを求める「いのちのとりで裁判」が次々と提起された。

原告人数は千人を超え、今までに6カ所の地裁で判決が下りた。

2020年6月に最初の判決が出たのが名古屋地裁。これに関わったのが、私の新聞記者時代に同僚だった白井康彦氏だ。
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文=小出将則

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