「資金調達金額1兆円」時代へ
━━ インキュベイトファンド・セネラルパートナー 村田祐介日本の「スタートアップ・エコシステムの進化」の象徴は、創業者、CxO(最高責任者)クラスの「質」向上だ。シリアルCxOも増えたことが大きいだろう。
なかでも、CFO(最高財務責任者)の質があきらかに向上している。セルサイド、バイサイドの市場関係者がCFOとしてスタートアップに参画し、(揶揄として言われた)「IPOゴール」ではなく、中長期的な資本政策まで含めてIPO戦略を立てる企業が多く、資金調達の仕方が明らかに変わった。機関投資家とのコミュニケーションをはじめ、資金調達の考え方、手法が、従来と全く異なるレベルにアップデートされた。
VC側の変化では、この2年で機関投資家の資金を扱えるGP(ゼネラルパートナー)が増えた。そのため、資金の「性質」が変わってきている。金融商品として高いパフォーマンスを出すという目線感がより明らかになった。
日本ベンチャーキャピタル協会と英プレキンで調査している機関投資家向けのパフォーマンス指標「国内パフォーマンスベンチマーク」により、自分たちの「結果」の可視化、グローバルな比較ができるようになり、VCの経営方針、運営方針がより磨かれている。
21年の象徴的な事例は、スタートアップ側、VC側ともに「海外投資家からの資金調達」だ。著名海外投資家から無名まで一気に参入が増え、グロースキャピタルというステージが日本にも誕生した。海外VC、海外上場株投資家による投資がこれまでの年数件程度から、明らかに増えた1年だった。
海外機関投資家から見えない存在だった日本のスタートアップが「見える化」されたと言える。冒頭のCFOの質的変化にもつながるが、上場準備の早い段階から機関投資家と接点を持つということが新常識になってきた。一方で、我々もそうだが、海外機関投資家からLP出資を受けるVCも増えた。海外機関投資家からファンドレイズできるプレイヤーの登場も新たな傾向であり、進化を表していると言えるだろう。
今後、スタートアップは「超二極化」する。海外機関投資家や海外トップティアVCと対話して大型資金調達するスタートアップと、そうでないスタートアップに分かれるだろう。CBインサイツ調査によると、世界における21年第3四半期のスタートアップ資金調達金額は、過去最高の1582億ドル。前年同期770億ドルから105%増と、世界同時多発的に多くの資金がスタートアップに流れている。
米国では現在、資金調達金額全体の7割強をVC以外の投資家が占める。未上場株式という新たなアセットクラスが魅力的なパフォーマンスが出ているという事実はテーパリング(量的緩和の縮小)が加速しても変わらないだろう。クロスオーバー投資家、プライベートエクイティ、ヘッジファンド、グロソブ系ファンド、年金系ファンドのような上場株投資家のスタートアップへの直接投資は進んでいく。日本でも、この動きは止まらないだろう。
米国で極端にバリエーションが高騰しているため、割安感がある日本にグローバル投資家が投資するという傾向は、今後も続き、「常態化」すると思っている。来年には、日本のスタートアップ資金調達金額が「1兆円の壁」を越えると思っているが、内訳は海外投資家の割合が大きいという構造になるのではないか。(談)
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本連載は、発売中のForbes JAPAN2022年1月号の特集「起業家ランキング2022」と連動した企画です。今後、著名投資家へのインタビューを連載形式で随時公開を予定しています。(Vol.1はこちら)