ビジネス

2021.12.07

組織の変革なんて待つな。個人が強くなるための「投資思考」

Forbes JAPAN 2021年10月号の特集は、投資家のように長期の時間軸で未来を描き、逆算して行動に移す「投資思考」。敏腕の投資家や賢者たちに、必要な視点と準備の仕方を聞いた。投資思考を考える旅の出発点は、数々の国内企業を再生してきた経営コンサルタントの冨山和彦と、資本主義研究をライフワークとする元CFO堀内 勉の対話から始まる。システムを変える思考と個人を再生させる危機感をもて!


利益の考え方を誤った日本企業


冨山:今日の投資というテーマでよくある勘違いは、「GAFAの投資額ってとんでもない」「メッセンジャーRNAワクチンへの投資は先見の明があった」といった声でしょう。みんな出来上がった成功例だけを見ているんです。見えないところでは死屍累々ですが、それはニュースにはならない。通常の競争環境のもとでは、投資にリスクが付きものなのは当たり前なんです。それでも産業構造が変化してイノベーションが求められている時代には、リスクを覚悟して思いきった投資が必要になる。ところが、日本企業にはそれができない。稼ぐ力がとても弱くなっているからです。

実は、好調に見える企業もぜんぜんもうかっていないんですよ。だから、現状の設備や組織を維持するのに目いっぱい。内部留保の問題にしても、資金をもっていないと怖くてしょうがないから、ためこんで使っていないだけ。それこそアップルなんて、フリーキャッシュフローで約4兆円あるわけです。営業キャッシュフローで年間8兆円。欧米企業は、もうかっているレベルのケタが違うのです。

堀内:会計的にいえば、利益を上げるためには2つしか方法がありません。売り上げを伸ばすか、経費を減らすか。利益を出そうとすれば、そのどちらでもいい。日本企業はこの20〜30年、売り上げを増やすのではなく、コストを削減することで利益を捻出してきた。それが限界に達してしまっている。これは一言でいえば、怠惰、でしょう。

冨山:経営的怠惰ですね。現場は一生懸命、働いていた。でも、給料も上がらなかった。

堀内:日本がデフレになるのは、当然ですよ。世界的に見て、日本が異様に見えるのは、“よいものを安く”と言っていることです。よいものを高く売るのは、商売の基本中の基本。なぜよいものを安く売らないといけないのか。日本は異様な社会になっているんです。どうやって売り上げを伸ばすか、ちゃんと考えないといけなかった。

それでも、計画だけは立てるわけですね。来年は5%、6%伸ばすと。それを達成しろ、となって、部門長、部長、課長と下りてくる。うまくやれ、と言われるだけで、みんなできないことがわかっている。となれば、インチキをするしかない。それで、粉飾決算や偽装が出てきた。これは、経営上層部の問題なんですよ。こんな状況をもたらした怠惰な人たちには、考え直してもらうか、退場してもらうしかない。

冨山:赤字事業をなかなかやめられない会社が多いのです。メディアにはたたかれ、組合とはハードネゴが必要で、取引先には迷惑がかかる、と言い訳にする。ノンコア事業や、これ以上の投資をする予定がない事業は、むしろ赤字になる前に売却交渉をして撤退すべきなんです。そのほうが雇用を守れる。なのに結局、逃げ回ってきたんですよね。

年功制だって、人口構成がピラミッド型じゃないと成り立ちえないのです。社会全体が少子高齢化して逆三角形になっているなか、終身年功制なんて自明的に無理でしょう。経団連だって、やっと中西宏明さんが初めて言ったんですから。これではもたない、と。
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文=上阪 徹 写真=桑嶋 維(怪物制作所)

この記事は 「Forbes JAPAN No.086 2021年10月号(2021/8/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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