ビジネス

2021.12.07

組織の変革なんて待つな。個人が強くなるための「投資思考」



経営共創基盤グループ会長、日本共創プラットフォーム代表取締役社長 冨山和彦

一度きりの人生を真面目に考える


堀内:建物もそうですが、組織も維持するのにコストがかかります。モノだけじゃなくて、人間もレガシーになってしまっている。日本企業は優しすぎるために、究極的に冷たい組織になっているんです。長期的には、ちっとも優しくない。それこそマッキンゼーみたいな外資系は、2〜3年やればダメだと言ってくれる。そうなったら、次の人生をまじめに考えるわけです。ところが、日本企業みたいに、40歳を過ぎてから「君はダメかも」と言われても困る。もはや再訓練は厳しい。

冨山:ひとつの救いは、大企業的レガシーのなかにいる40代、50代の何割かは、おかしなプライドを捨ててくれれば中堅中小企業で活躍できること。これはかなり確信をもって言えます。ただし、自分で全部やらないといけないですけどね。

堀内:つまり、問題には2つの側面があると思っているんです。大きなシステムの問題と、個々人がどう生きるかの問題。実はこれこそ僕が『読書大全』を書いた理由です。システムがよくなるのを待っていたら、死んでしまうかもしれない。それより、個人が強くなったほうが早い。誰かがなんとかしてくれるのを待っていても、どうにもならないんです。個々人が危機感をもって頑張るしかない。

世の中は、実はとても厳しい。ボーッとしてなんていられない。会社を経営するのだって大変です。売り上げが上がらないと終わりで、自己破産だって待っている。そんな危機を一度でも経験すれば、まわりの景色は違って見えてきます。自分はフィクションの上に立っている、ということを自覚できるかどうかで、人生は変わっていくでしょうね。

冨山:それは、かつて堀内さんが金融の世界にいたときに味わった話でしょう。

堀内:僕自身、あの当時「長信銀不要論」を聞いても、自分が勤務していた日本興業銀行がつぶれるとは思っていませんでした。でも、北海道拓殖銀行がつぶれて、その可能性は十分あると思い始めた。ただ大手銀行には「大きすぎてつぶせない」という議論があった。つぶれるべき銀行が国に助けてもらって生き残り、そこでエリートで偉くなりましたって、これはさすがに自分の人生としてどうなのか、と思ったんです。1回しかない人生、これはないだろう、と。真面目に考え出したら、会社の飲み会に付き合いで行ったり、上司におべっか使ってる場合じゃない、もうちょっとちゃんと生きないとまずいぞ、と思い始めました。

冨山:では、『読書大全』に出てくる本を読み出したのは、それからですか?

堀内:興銀を辞めてからです。興銀にいたら、本を読む必要ないですから。偉くなるのに、変な教養があったってしょうがない。寄らば大樹の陰でテキトーに生きるなら、読書なんて意味ない。冨山さんはたくさん読んでるけど。

冨山:僕を突き動かす根っこにあるのは、好奇心ですから。世の中の森羅万象で知らないことがわかるのは面白い。なかでもいちばんの謎は人間ですよね。
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文=上阪 徹 写真=桑嶋 維(怪物制作所)

この記事は 「Forbes JAPAN No.086 2021年10月号(2021/8/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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