日本へ亡命を果たした「覚悟のゴールキーパー」のチャレンジ

入団会見時のピエリアン・アウン(右)とY.S.C.Cフットサル監督前田佳宏(左)/photo by 藤江直人

サッカーのミャンマー代表のゴールキーパーとして来日し、日本代表とワールドカップ予選を戦ってから半年あまり。キックオフ前にミャンマー国軍へ抗議する意思を示した25歳のピエリアン・アウンは命の危険があるとして帰国を拒み、日本政府から難民認定を受け、9月にはプロ選手としてY.S.C.C.横浜フットサルへ加入した。11月23日には念願のFリーグデビューも果たした彼は、日本人には馴染みが薄い難民が抱く覚悟を持ちながら、周囲へポジティブな影響を与え、今を必死に生き抜いている。

反対の声もある中、なぜY.S.C.Cはアウンを受け入れたのか


難民と呼ばれる外国人と同じ時間を共有する日常生活が、ある日を境に突然始まったとすれば日本人はどのような思いを抱き、あるいは反応を示すだろうか。

そもそも難民という言葉自体が、日本社会で理解されない状況が続いている。国連の難民問題に関する機関、国連難民高等弁務官事務所は難民をこう定義している。

「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるか、あるいは迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた人々」

現在では「武力紛争や人権侵害」が母国から逃れる理由に加わった難民の数は、2020年末時点で約8,240万人に達し、世界の人口約77億人の1%以上を占めている。

周辺国や先進国を含めた第三国が難民を受け入れてきた世界の歴史の中で、日本は難民の受け入れに対して非常に厳しいスタンスを取る国として認知されてきた。

1981年に難民条約に加入した日本は、翌年に難民認定制度を導入。出入国在留管理庁によれば2020年末までに8万5479人が申請し、認定者はわずか841人となっている。申請者数に占める認定者の割合は0.98%だが、近年に絞れば2016年が0.26%、2017年が0.1%、2018年が0.4%、2019年が0.42%と極端に低くなっている。

日常生活で一般市民が難民と接する機会が少ない日本社会は、必然的に無理解な一面を持ち合わせる。無理解とは難民に向けられる、根拠のない誤解や偏見を指す。

日本で難民認定されたサッカーの元ミャンマー代表ゴールキーパー、ピエリアン・アウンと9月にプロ契約を結んだY.S.C.C.横浜フットサルも例外ではなかった。

J3リーグに参戦しているサッカーチームの練習生として、アウンが迎え入れられると発表された7月中旬以降に、クラブの掲示板は心ない書き込みで荒れた。ミャンマーへ追い返せという暴言だけではない。中には「町の治安が悪くなる」と、アウンを勝手に犯罪予備軍に仕立て上げた誹謗中傷も少なくなかった。

ここで素朴な疑問が生まれる。縁もゆかりもなかったアウンを、横浜はなぜ受け入れたのか。吉野次郎理事長は「賛否の声は何をやってもある」と前置きした上で、当時大阪に滞在していたアウンに練習参加を打診した理由をこう語る。
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文・写真=藤江直人

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