博多から由布院へ。「幻の列車」で味わう究極のガストロノミーとは

JR KYUSHU SWEET TRAIN「或る列車」と成澤由浩シェフ

最近、世界の美食シーンでは、レストランの壁に映像を映すなどして、店にいながらにして、まるで旅しているかのように様々な景色を楽しめる体験型のレストランが注目を集めている。そんななか、ここ日本で、バーチャルではなくリアルに“車窓の景色”を楽しみながら、コース料理を楽しむことができる美食体験が誕生した。

九州の博多−由布院間を結ぶ、幻の列車とも呼ばれる、「或る列車」だ。


(c)JR九州

明治39年、九州鉄道がアメリカのブリル社に豪華客車を発注。しかし、国有化に伴い、それが活躍する機会はなくなってしまった。のちに、「鉄道模型の神様」とも呼ばれた故・原信太郎氏が模型を作成、それをベースに工業デザイナーの水戸岡鋭治氏がデザイン・設計、さらに「原鉄道模型博物館」副館長を務める原健人氏が監修して、2015年8月に運行開始。

当初はスイーツコースを提供していたが、11月13日から、前菜・スープ・肉料理・デザート・小菓子というフルコースを開始した。

ミシュラン2つ星 NARISAWAのシェフが監修


この職人技を極めた列車で料理を監修するのは、「イノベーティブ里山キュイジーヌ」で知られる東京・青山「NARISAWA」オーナーシェフの成澤由浩氏。ヨーロッパ各地の名店で修行した後、2003年に東京に開業。日本各地に眠る“自然との共生”のための知恵を食に取り込み、地方の魅力を発信したいと、日々新しい料理を生み出している。


(c)JR九州

「或る列車」の仕事を受けるにあたって、成澤氏が出した条件は、九州中を周り、自ら食材も器も選ぶこと。運行開始前に1年間、毎月九州を訪れ、約70の生産者を訪問。実際に目で見、舌で確かめた食材を選び抜いた。

味だけではなく、地球にも人にも優しい食を目指す成澤氏だけに、食材は有機無農薬のものがメイン。例えば、現在使っている八女茶の生産者は、成澤氏との対話がきっかけで無農薬栽培を始め、味を気に入った成澤氏が東京の店で使うなど、食と農の良い循環も生まれてきている。



贅を凝らした豪華列車、さらに日本ならではの食とおもてなしが楽しめるとあって、海外のファンも多い。「九州の魅力を発信するアンテナショップのような存在であってほしい」と成澤氏は考えている。

また、ここで出会った食材は、NARISAWAの料理にも影響を与えている。食材探しの際に出会った喜界島の粗糖は、今ではNARISAWA系列店の「BEES BAR」や、コロナ禍でスタートしたテイクアウト「プレミアムボックス」などにも使われている。
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文=仲山今日子

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