ビジネス

2021.12.03

時代遅れから世界的トレンドへ。ポーランド発の人気宅配ポスト

一昔前、ロッカーといえば、駅前でカバンを一時的に預けたりする場所だった。それがテクノロジーと融合したいま、「物流の最前線」に変わろうとしている。


2016年の夏、ポーランドの起業家、ラファウ・ブロスカ(43)は苦境に陥っていた。彼が大学時代に立ち上げ、20年近くかけて年商1億2000万ドルの上場企業に育て上げた物流企業インポストが、国営郵便サービスとの競争に敗れ、6500万ドルにも上る巨額の負債を抱えていたのだ。

同社を救済した投資会社アドベント・インターナショナルはある条件を提示した。それは、物流から手を引き、10年にスピンアウトさせたeコマースの荷物の受け取り用の街頭ロッカーの事業に専念するというものだった。当時、アマゾンが普及を目指していたロッカーは1台2万ドルの設置費用がかかったが、インポストは2200台のロッカーを顧客の自宅や職場から300m程度の距離に配置していた。

アドベントは翌年、インポストを1億1000万ドルで買収すると非上場にし、1億2500万ドルの資金を注入。同社のロッカーの台数を1年で約2倍の4400台にまで増設した。

ポーランドではeコマースの普及が遅れていたが、17年頃には安定的に伸び始め、新型コロナウイルスのパンデミックを受けて市場は1年で36%も急拡大。インポストの売り上げは20年に前年比104%増の6億7700万ドルに急上昇し、同社のロッカーは今やポーランドの宅配荷物の36%を扱っている。

インポストは現在、ポーランドに約1万2000台、英国に1000台のロッカーを設置している。同社は1つの荷物につき約2ドルを請求するが、無人のロッカーの運営コストはわずかなものだ。インポストの20年の純利益は9700万ドルだった。今年の1月にはアムステルダム証券取引所に再上場を果たし、時価総額は97億ドルに達した。創業者であるブロスカの保有資産は約11億ドルに達している。

一方で郵便サービスやUPS、アマゾンは、欧州の数千の小規模店舗を集荷の拠点に使おうとした。しかしコロナ禍によるeコマース人気で、想定以上の荷物が押し寄せた結果、その対応に苦慮している。
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文 = イアン・マーティン 写真 = サンドラ・ソベルスカ 編集 = 上田裕資

この記事は 「Forbes JAPAN No.085 2021年9月号(2021/7/26発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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