2016年の夏、ポーランドの起業家、ラファウ・ブロスカ(43)は苦境に陥っていた。彼が大学時代に立ち上げ、20年近くかけて年商1億2000万ドルの上場企業に育て上げた物流企業インポストが、国営郵便サービスとの競争に敗れ、6500万ドルにも上る巨額の負債を抱えていたのだ。
同社を救済した投資会社アドベント・インターナショナルはある条件を提示した。それは、物流から手を引き、10年にスピンアウトさせたeコマースの荷物の受け取り用の街頭ロッカーの事業に専念するというものだった。当時、アマゾンが普及を目指していたロッカーは1台2万ドルの設置費用がかかったが、インポストは2200台のロッカーを顧客の自宅や職場から300m程度の距離に配置していた。
アドベントは翌年、インポストを1億1000万ドルで買収すると非上場にし、1億2500万ドルの資金を注入。同社のロッカーの台数を1年で約2倍の4400台にまで増設した。
ポーランドではeコマースの普及が遅れていたが、17年頃には安定的に伸び始め、新型コロナウイルスのパンデミックを受けて市場は1年で36%も急拡大。インポストの売り上げは20年に前年比104%増の6億7700万ドルに急上昇し、同社のロッカーは今やポーランドの宅配荷物の36%を扱っている。
インポストは現在、ポーランドに約1万2000台、英国に1000台のロッカーを設置している。同社は1つの荷物につき約2ドルを請求するが、無人のロッカーの運営コストはわずかなものだ。インポストの20年の純利益は9700万ドルだった。今年の1月にはアムステルダム証券取引所に再上場を果たし、時価総額は97億ドルに達した。創業者であるブロスカの保有資産は約11億ドルに達している。
一方で郵便サービスやUPS、アマゾンは、欧州の数千の小規模店舗を集荷の拠点に使おうとした。しかしコロナ禍によるeコマース人気で、想定以上の荷物が押し寄せた結果、その対応に苦慮している。