オードリー・タンの母親が語った、ギフテッドの子供と「学校恐怖症」

提供:唐光華/オードリー・タン


「家庭戦争」の幕開け


「夫がどんどん遠ざかっていくようで、私は初めて孤独を感じた。私たちは世間一般の夫婦によくあるように、子どもの教育が原因でうまくいかなくなった」

──大恋愛で学生結婚したオードリーの両親は、ほとんど言い争いをしたことがないというほど仲睦まじかったが、オードリーの休学は夫婦関係にも大きく影響した。

父親は、自分の子どもはきっと問題に向き合えるはずだと主張した。母親は、傷ついた子どもの心を癒してあげたいと譲らない。父親は、お前が子どもをひ弱に育てたと言い、母親はあなたが子どもを隅へ追いやったと責めた。散歩する度に言い合いになり、互いの顔を見るのも嫌になるほどだった。

「以前の優しく、自分を愛してくれた夫はもういなくなってしまった」

母親はやりきれない思いを抱えながら、悪夢にうなされるオードリーと、その弟と、三人で寝床につく。父親からは「こんなに大きい子どもと母親が一緒に寝る道理は何だ」と不思議がられたが、相手にしなかった。

同居していた義父母からも理解されなかった。

それまで良い関係を築いてきたはずの義母からは、「このままなら一緒には暮らせない」と言われてしまう。もともと口数の少なかった義父は、ますます口をきいてくれなくなった。教師の家庭訪問があった後には義父母から責められるといった状況で、母親はまさに八方塞がりだった。

母親も苦しい日々を過ごしていたが、当事者のオードリーは一人ひとりとの冷戦の中で常に緊張し、もっと辛い思いをしていた。義母から「皆が学校に行っているのに、なぜお前だけが行かないんだい?」と訊かれると、「おばあちゃん、もし皆が死んだら、僕も自殺しなくちゃいけないの?」と答えたという。

そんな逆境にあっても、母親は「一体これまでどれだけの子どもたちが、監獄のような学校に閉じ込められてきたのだろう」と思い始めていた。

愛する夫から責められても、母親の中に芽生えた想いは次第に確信へと変わっていく。教育上の「当たり前」に挑戦しようという想いだ。


(筆者・近藤弥生子の著書『オードリー・タン 母の手記「成長戦争」 自分、そして世界との和解』はKADOKAWAより発売中)

文=近藤弥生子

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