Forbes JAPANでは、これまでの考え方や既存のシステムを超えて活躍する女性にフォーカスした企画「Beyond Systems」を始動。翻訳コンテンツを含めたインタビュー記事を連載していく。
「女性が自由に選択できる社会をつくりたい」という想いに突き動かされた弁護士・越直美は、2012年36歳のときに大津市長に就任。「史上最年少の女性市長」として注目を集めるなか、保育園の大幅増設や予算を捻出するための行財政改革など、女性が働きながら子育てをしやすいまちづくりに尽力してきた。
任期を終えた現在は、三浦法律事務所パートナー弁護士として、また女性役員の育成や紹介を行うOnBoardの代表取締役CEOとして、さらに活躍の幅を広げている。
法律家だった越は、なぜ市長への出馬を思い立ったのか。越の人生の転機と、仕事への向き合い方を追った。
女性が自由に選択できる社会を
何か特殊な事情がない限り、人生で「市長になる」が選択肢にあがる人はほとんどいないかもしれない。
越も、身近に政治家がいる環境で生まれ育ったわけではない。北海道大学院在学中に司法試験に合格すると、卒業後は現在の西村あさひ法律事務所に所属。先輩たちと同じように企業弁護士としてのキャリアを重ねていくものと思っていた。入所6年目に留学したハーバード大ロースクールで、ある衝撃的な光景を目にするまでは。
「当時はオバマ大統領が初めて立候補する大統領選挙が行われる直前でした。若い学生たちが積極的に選挙運動をしているのを見て、政治への関心の高さに驚くとともに、私も世の中を変えるために何かしたいと思いました」
その翌年、越はもう1つのカルチャーショックを経験する。働き始めたニューヨークの法律事務所で、アメリカ人の男性弁護士が1年間の育児休暇を取得したのだ。「正直、ものすごく驚きました」と、当時の衝撃を語る。
「日本で育休を取る男性は見たことがありませんでしたから。気になって調べてみると、当時日本では5、6割の女性が第一子の出産と同時に仕事を辞めていました。私の周りにも出産を機にキャリアを諦めた友人や、仕事と子育ての両立に苦労している友人がいて、日本は女性ばかりが子育てをしている国だと気づいたんです」
仕事か子どもか。女性がどちらかを選ばされる“二者択一”の状況を変えたい。『女性が自由に選択できる社会』をつくりたいと、このとき越は強く思った。
「そもそも、女性が仕事を辞めてしまう大きな要因は保育園不足にありました。保育園をつくる権限があるのは市町村です。だったら私が市長になって、まずは地元の大津市の保育園を増やしたいと思いました」
越は至極ロジカルに、「市長になる」という選択肢を導き出したのだった。