将来的な成長を見越し、データブリックスは本社をサンフランシスコの高層ビルの13階へと移した。彼らは「13」という不吉な数字を気にせず、「安く借りられたのもそのおかげだ」と考えた。だが数カ月後、不吉な影が見え隠れし出した。
「市場戦略を決めるのに時間をかけ過ぎていた」と、ホロウィッツは言う。
アマゾン・ドット・コムなどの大手は、データブリックスを飛ばして、オープンソースで公開されたスパークを自社製品に組み込んでいた。ゴディシは、「収益はほとんどゼロだった」と語る。
そこで16年1月に新CEOに就任したゴディシは、直ちに3つの手を打つ。営業チームの増強と、経営チームの刷新、そして過度にオープンソースな製品になっていたスパークに保護領域を設け、営業担当者が売り出しやすい製品にすることだった。
しばらくして、アップダイナミクスなどの企業をイグジットへ導いた人々が、経営に加わった。核となるスパークのエンジンを活用した、新たなプラットフォームも好評を博した。データブリックスの売り上げは急速に伸び、16年には1200万ドルに達した。
ホロウィッツはその後、マイクロソフトのサティア・ナデラCEO宛てにメールを書き、「データブリックスはビッグデータにおける革命の先駆者だ」と売り込んだ。するとナデラからすぐに返事があり、マイクロソフトは年間売り上げ595億ドル(20年時点)の自社クラウドサービスに、「Azure Databricks(アジュール・データブリックス)」として組み込んだ。
18年、データブリックスは機械学習プロジェクトを管理するプラットフォーム「MLフロー」を公開し、翌19年には、企業がゼロからレイクハウスを構築せずに済む「デルタレイク」を発表。そのいずれも成功させた。今では、「スパーク」は顧客がデータブリックスを利用する理由の5%を占める程度だ。
「データブリックスは、スパークをはるかに超える企業に成長した」とホロウィッツは胸を張る。
今年2月に10億ドルを調達し、評価額が280億ドルに達したデータブリックスの好敵手は、スノーフレークだ。両社は3年前までは提携していたが、今では強烈なパンチを浴びせ合っている。
「スノーフレークは確かに優れた企業だが、この分野でデータブリックスをしのぐイノベーションを起こせる企業は他にない」と、ホロウィッツは言う。しかしゴディシは、スノーフレークだけでなく、自社に出資しているテック業界の巨人(アマゾン、マイクロソフト、グーグル)ですら、いつかはデータブリックスを脅かすかもしれないと考えている。