東京都のファンド出資事業で2社にハンズオンするインキュベイトファンドの本間真彦を加えた三人での鼎談が実現した。
Thirdverse:VRコンテンツの・サービスの企画・開発・販売を展開。「VR×メタバース」をキーワードに、バーチャル空間で過ごせるVR経済圏の創造を目指す。
レット:過剰在庫品、規格外商品、型落ち商品、見切り品などの「訳あり商品」を売買できる食品ロス・在庫ロス削減アプリを展開。すでにユーザーは500万人を突破した。
インキュベイトファンド:コンセプトの段階から起業家とキャピタリストが一体となって事業を立ち上げて行く独自の支援スタイルで、創業初期の投資・育成に特化する独立系ベンチャーキャピタル。
2度目のスタートアップで、2020年代のIT業界をけん引する
本間:お二人はすでに起業家として上場を果たし、実績を挙げている経営者です。そんな二人がなぜ、代表を退任してまで新たに起業しようとしたのか。その辺から伺えますか?
佐藤:僕の場合は単純にコンプレックスです(笑)。BtoBのサービスを手掛けたけど、LINEやメルカリといったようなほとんどの国民が使うサービスを創っていない。ITで最後にやるべきは国民のインフラになるようなサービスだと思って、新たにレットを立ち上げました。
本間:そのサービスをするために、経営していたメタップスではなく、新たにレットを立ち上げた理由は何ですか?
佐藤:上場会社はどうしても四半期決算の制約を受けてしまい、大きな投資が必要になるコンシューマ向けサービスの開発ではスピーディにできない。だからフットワーク良くするためにも、新たに起業したというわけです。
レット代表取締役 佐藤航陽
國光:僕も佐藤君の動機と近くて、やり残したことがあるという想いはあります。2007年にgumiを立ち上げてソーシャルゲームに参入して、2014年に上場するなど、国内では一定の成果を残すことができたのですが、目標としていた世界制覇の夢は叶えることが出来ないままで終わってしまいました。その後、力を入れていたメタバース(XR)やブロックチェーンが本格的に立ち上がり期を迎えるなかで、色んなしがらみから離れて、一起業家として全力でバットを降って、今度こそは世界制覇の夢を叶えたいと思いました。
本間:それが「VR×メタバース」。まずはVRゲームで世界的なヒットゲームを作ることを掲げているわけですね。一方の佐藤さんは食品ロスを削減するサービスをスタートさせています。
佐藤:ええ、僕も2010年代のITをけん引したのはスマホやSNSという認識ですが、それじゃ2020年代は何かといえば、「宇宙」「メタバース」、そしてもう一つが「環境」だと考えています。例えば、テスラをトヨタと比較すると、販売台数ははるかに及ばないのに資産価値がすごい。それだけ世界の投資家から「環境」が重視されている証です。Eコマースにおいても同じことが起こると考えていて、新しい価値が生まれる可能性は高い。例えば、GMV(流通取引総額)や売上とは違う、環境に対する配慮という指標が存在しうる社会になると考えています。しかも環境に対する意識は消費者も変わってきているし、販売側にもサスティナブル消費に対する意識は高まっていますから。
2回目の起業だから見えてきたこと、できること
本間:私もお二人とは以前からの知り合いで、日本のベンチャーの中でもかなり攻めるタイプの経営者だと思います。普通、上場企業の経営者になれば安泰なのに、わざわざリスクを取って新たにチャレンジしている。1回目に起業した時と比べると、今の日本のベンチャーを取り巻く環境も大きく変化していると感じていますが、2回目ということで何かしらの発見はありますか?
國光:僕は基本、前回と同じだと思っています。その時の最先端のテクノロジーと、そのテクノロジーでなければできない広義の意味のエンターティメントを融合させて新しいビジネスを創造するという行為は変わらない。そして、なぜ、今なのかというと「タイミング」です。スタートアップが成功するか否かのカギを握るのは、新しいマーケットが立ち上がる早い段階に良いポジションを取ること。それが「今」だと思っています。スタートアップの最大の武器はスピードですから、早く動いてある程度の規模までもっていかないと、後からくる大手や海外勢との物量戦に勝てないですから。
Thirdverse代表取締役CEO 國光宏尚
本間:ただ、スタートアップから5年、10年と経営は続くわけですが、1回目はその全容が見えない。でも、今回は一度経験したことで経営のあり方や事業展開が俯瞰して見えるのではないですか?
國光:確かにそれはあります。一度経験したことで、自分の得意なことと不得意なことはよくわかりました。頭で理解するだけでなく経験として腹落ちしているのが大きいですね。1回目は何でもできるという万能感のようなものがあって、自分が何でもやっていたけど時間は限られているわけだから、得意なオフェンスに集中して、苦手なディフェンスは得意な人にやってもらう。そんなマネジメントにシフトしました。
佐藤:あとは仕組みづくりですね。2回目にチャレンジするに当たって一番力を入れたのは仕組みづくりなんです。國光さんもそうだけど僕もビジョン思考だからどんどん突っ走ってしまう。だから後ろをしっかり守ってくれるのは誰かという視点で組織づくりをしてきました。そういう意味では1回目の起業とはかなり違いますね。
國光:人的ネットワークも築き上げてきたから、資金調達も1回目よりはやりやすくはなったね。ただ、依然として海外のスタートアップと比べるとまだまだ調達力は弱い。そこをVCや公的機関にもお願いしたいところです(笑)。
世界と戦うには「人材」の確保が不可欠
本間:アメリカ、日本、中国と起業家は同じ領域のビジネスをしているのに、なぜ、こんなに差がついたのかというと、私は一つのスタートアップが生み出すエネルギー量の違いを感じています。野球に例えれば、米中はホームランを狙って強振した事業が生まれてきているのに、日本からは振りが弱い事業が生まれやすい。そういう意味では二人には強振できるプレイヤーとして期待しています。
インキュベイトファンド代表パートナー 本間真彦
國光:そのためにも世界に挑戦し続けるという姿勢が大切だと思います。例えば、韓国のBTSが、何故、世界的なアーティストになったかというと、跳ね返されても世界に挑戦し続けたから。そういう意味でも僕は世界制覇を掲げているわけです。ただ、僕たちは個人で完結するビジネスではないので、重要になるのが「人材」です。特にITではエンジニアが圧倒的に足りないと感じています。これは一企業だけではどうすることもできないので、国策として考えていく必要はあると思います。
佐藤:ただ、コロナ禍によってずいぶん変化はしてきましたよね。テレワークが当たり前になって、働く場所は問わなくてもいいわけで、人材を募るのも東京にこだわらず採用できるようになった。この変化は大きいと思います。
國光:確かに日本の地方はもちろん、世界の70億人から優秀な人材を集めることができる環境になったね。
佐藤:それと僕が注目しているのが副業で開発に関わってくれる人たち。副業で関わる人は、「面白そうだから関わりたい」という好奇心や向上心が旺盛な上にスキルも高い人が多い。人材確保という面では、以前に比べると少しは光明が見えてきたかなという感じです。
本間:なるほど。環境は整いつつあるので、再度、新しい事業にチャレンジするお二人にはグローバルな市場で戦うパワーとノウハウを持ち合わせていると感じていますので期待しています。そして、後に続く起業家をリードしていただきたいですね。
國光宏尚◎Thirdverse代表取締役CEO。サンタモニカカレッジ卒業。2004年、アットムービーに入社、同年に取締役に就任。映画やドラマのプロデュースを手掛ける一方で、様々な新規事業を立ち上げる。07年gumi を設立。21年8月Thirdverse 代表取締役CEOおよびフィナンシェ代表取締役CEOに就任。
佐藤航陽◎レット代表取締役社長。早稲田大学在学中の2007年にメタップスを設立、アプリ広告やネット決済の事業を世界8ヵ国で展開。2015年に東証マザーズに上場。累計100億円以上の資金調達を実施し、年商100億円以上の企業に成長させる。2018年にレットをMBOして代表取締役に就任。フォーブス「日本を救う起業家ベスト10」選出。
本間真彦◎インキュベイトファンド代表パートナー。ジャフコの海外投資部門にて、シリコンバレーやイスラエルのIT企業への投資、JV設立、日本進出業務を行う。アクセンチュアのコーポレートデベロップメント及びベンチャーキャピタル部門に勤務。三菱商事傘下のワークスキャピタルにて創業投資からIPOを経験。国内投資に加えて、シリコンバレー、インド、及び東南アジアの海外ファンドの統括も行う。