社会に役立つこと以外つまらない。「死」に直面して知った利他の心

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「死」に直面すると、社会に役立つこと以外は、何をしてもつまらないと思うようになる──。

「ぐるなび」の滝久雄会長が貢献心の存在を確認したのは、骨髄がんの可能性があるとわかった35歳のときだった。

対談後半では、滝の子ども時代から青年時代の思い出や、小山薫堂の“人生最大の買い物”をとおして、「貢献する喜び」と「浪費の幸せ」を探る(前編はこちら)


人類の本能には利他の貢献心がある


小山薫堂(以下、小山):滝さんはよく「貢献は本能だ」とおっしゃいますよね。そう思い至ったきっかけは何ですか?

滝 久雄(以下、滝):国か、地域か、会社か、家族か、もっと狭いコミュニティかは人それぞれですが、「自分を(社会に)生かしたい」と思うのはホモ・サピエンスの本能である、というのが僕の哲学なんです。

以前、僕の『貢献する気持ち』という本を読んだ数学者の方からお手紙をいただいたことがありましてね。

夜中まで数字と格闘することは社会のためだというプライドが先立っていた。しかし、本を読んで、これは「自分を社会に役立たせたい」という気持ちの表れだと気がついた。すると奥さんにも「すみません。今日は徹夜でやらせてください」と自然に頭を下げるようになり、奥さんもおいしい夜食を出してくれるようになったと(笑)。つまり、奥さんも役に立ちたいんですよね。


滝久雄『貢献する気持ち ホモ・コントリビューエンス』と小山薫堂の新刊『妄想浪費』

誰もが「人類が前に進むための布石を残したい」と願い、それに貢献できたときはうれしいはずです。でもよく考えると、実は自分がやりたいだけ。利他というのは「他のための利」ですが、実はホモ・サピエンスはそれを本能としてもっている。それが僕のオリジナルの哲学です。

小山:「利他」と言いつつも、それは「利己」でもあるわけですね。

:そうです。本能なんです。僕は将来リーダーになる若者に対してそのことを気づかせることが重要だと思う。誰しも、小さいころに掃除をして「ありがとう」と言われてうれしかった経験があるでしょう。それは、お小遣いをもらう以上に、うれしいわけでね。

いま、人類は「将来が見えない」という恐怖に怯え苦しんでいます。世界はひとつにまとまらないかもしれないと落胆している人も多い。でも、人類の本能には利他の貢献心がある。だから、「できないこともないはずだ」と思ってやれば、できるかもしれない。

例えば、観光。観光は世界で10%超えの一大産業であり、戦争とは真逆のテーマであって、観光をないがしろにするわけにいかないと世界のリーダーが一致団結すれば、利害的にも戦争はできなくなりますよね。

小山:まさしく。滝さんみたいなお考えの資産家がもっと増えると、日本はさらによい国になると思います。

:「貢献する喜び」に気がつけば、意外とみんな仲間になってくれますよ。薫堂さん、それを世間へと声高に伝えてください。

小山:『妄想浪費』は、まさにそれに気づいてもらうための本なんです(笑)。
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取材・構成=堀 香織

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