社会に役立つこと以外つまらない。「死」に直面して知った利他の心

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:資産家の最後の喜びは、社会に貢献すること以外にないんです。僕はそう思う。最初はエゴもある。虚栄心もあるし、競争心もある。それがビジネスに役立つ場面も多い。でも、最後の喜びは利他に至るんです。特に「死」に直面すると、社会に役立つこと以外は、何をしてもつまらないと思うようになる。

小山:滝さんも「死」への直面が、いまの貢献心に関係していますか。

:僕は小さいころから好奇心と負けん気が強くてね。親の言うことも世の中の言うことも無視して、好きなことしかしなかった。とんでもない奴だと自分自身を嫌いだった時期さえあるんです。


10代半ばの滝(写真=本人提供)

でも、中学2年生のとき、先輩の兄貴ががんになり、余命4カ月と診断されまして。その兄貴が1カ月だけ、親から容認されて遊びほうけるんだけど、遊んでいても面白くないんでしょう。結局最後は机に向かって勉強して、その命を終えたんです。それが僕のニヒリズムのスタートだった。

ところが、三菱金属(現三菱マテリアル)に入社して、24歳だったかな。あることを使命感にしようと決めた瞬間から、心に秘めていた「人はどうせ死ぬんだから、頑張ったってしょうがない」という感覚がいきなりなくなった。自分のような無茶苦茶に尖った人間からニヒル感が消えたのは、何か本質的なもの──本能がなければおかしいと考えはじめたんです。

小山:大きな転換期ですね。

:ええ。それで貢献心の存在みたいなものを漠然と考えるようになりました。

その後、35歳で骨巨細胞腫という難病、膝の骨がこんにゃくみたいに柔らかくなる病気になってしまったんですよ。最初の2週間は骨髄がんの可能性もあった。その死に直面した瞬間、本当に自分を役立てること以外、何もしたくなくなっちゃってね。遊びにも行かないし、結婚したばかりの奥さんのために何を残せるか、やりはじめた仕事をどう未来に繋げられるかばかり考えた。貢献心が本能にあるということを、そのときはっきり自覚し、確認できました。

小山:僕は死にかけたことがないのですが、人間というのはなかなか変われない生き物で、本当に死にかけないと変わらないのかなとは思います。

ただ、貢献心という話で言えば、僕は子どものころから本当に人を喜ばせることが好きだったんですよ。もともとは褒められてうれしかったのだろうけど、年をとるとともに、褒められなくてもうれしくなってきた。相手に喜んでもらえることが素直にうれしいといいますか。それが本能なのかなという感じがします。
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取材・構成=堀 香織

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