小山薫堂がぐるなび滝会長に聞く、「貢献する気持ち」の本質

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「1億円預けるから、何かおもしろいことをしてくれないか」

「ぐるなび」会長・滝久雄より、そのような破天荒な依頼を受けた小山薫堂は、新世代の若き才能を発掘する日本最大級の料理人コンペティション「RED U-35(RYORININ’s EMERGING DREAM U-35)」を発案した。2013年のことだ。以降、料理人の一大イベントとして広く認知され、今年(2021年)も全国より508名の応募があり、グランプリ受賞者は賞金500万円を授与された。

お金にまつわるエッセイ集『妄想浪費』の中で、小山は滝のことを「社会のために上手にお金を使える資産家」として紹介している。RED U-35も、ある意味では料理業界に対する貢献的な企画だろう。50億円に及ぶ大学への寄付など、滝のこれまでの貢献活動を振り返り、その根っこにある「貢献する気持ち」について、語り合ってもらった。


「料理界」と「感動」を繋げるために


小山薫堂(以下、小山):滝さんが飲食店検索サイト「ぐるなび」を設立したのは1996年。もう25年前になるんですね。始めたきっかけは何だったのですか?

滝 久雄(以下、滝):当時はインターネットが一般に普及してまもないころでしたが、「インターネットは継続的な販促メディアになる」という勘が働いたんです。それでインターネットを利活用して、外食産業50万軒の世界に、効率的に店へとお客様を呼ぶメディアを誕生させようと考えた。

僕は常々「日本の食文化」は世界一だと思っています。では、世界一の証拠はどこにあるのか。ひとつ指標がありまして、「個店経営が65%を常に超える事業ジャンルには国の固有の文化がある」というものの見方があるんですね。

日本の外食文化というのは、チェーン店が多いように思われがちですが、実は個店が65%を超えている。つまり、日本の食文化というのは国民が育てているんですよ。おいしくて割安な店を国民が探し、個店はそれに一生懸命応える。ゆえにどんどん潰れ、どんどん生まれる。それで常に65%以上が個店となり、だからこそ日本の食文化は世界一なのです。


2013年、「日本人の伝統的食文化」として「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録された(Koki Iino/Getty Images)

小山:なるほど。それは非常にわかりやすい指標ですね。

僕が滝さんと初めてお会いしたのは、食の総合的調査研究機関「ぐるなび総研」(2010年10月設立)の理事になってほしいという依頼でした。

実は最初、断ろうと思っていたんです。でも、滝さんがわざわざ弊社のオフィスまで、しかもおひとりで来てくださって。情熱と姿勢とビジョンの確かさにも心を打たれ、「役に立てるかわかりませんが」と引き受けさせていただきました。

:日本の食文化を守る担い手は小山薫堂さん以外いないし、我々の思いや志が伝わりさえすれば引き受けないことはないだろうと考えたのです。それで自分ひとりで伺いました。

小山:理事になって2年目でしたか、「1億円預けるから」と滝さんがおっしゃられたのは。企画者冥利に尽きるというか、料理界の次なる人材発掘に挑戦できると燃えましたね。
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取材・構成=堀 香織 写真=操上和美(滝久雄ポートレートのみ)

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