小山薫堂がぐるなび滝会長に聞く、「貢献する気持ち」の本質

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小山:拙著『妄想浪費』の1話目「見返りは期待せず」でも取り上げていますが、僕は滝さんの著書『貢献する気持ち ホモ・コントリビューエンス』に痛く感激したんです。特にこの一文に。

──貢献活動には「愛」から発するものと「憐れみ」から発するものの両方があり、憐れみの感情には自尊心や虚栄心とのすり替えが起こるのに対し、愛には本能的な与える喜びがある。──

ご著書にサインをいただいたとき、滝さん、「50億」と書いてくれたのですが、覚えていますか? 


滝久雄『貢献する気持ち ホモ・コントリビューエンス』と小山薫堂の新刊『妄想浪費』

:そんなこと、書きましたか(笑)。

小山:滝さんは留学生向け奨学金にも取り組まれていて、東京工業大学、お茶の水女子大学、東京藝術大学の3校に、計50億円を寄付されています。それだけの資産をもっていること自体すごいですが、その50億円を自分のために使わずに寄付するというのは、正直どのような感覚なのですか?

:『妄想浪費』には「かのルネサンス文化が花開いたのは、銀行家だったメディチ家がその資産を芸術家への支援に惜しげもなく使ったおかげである」と書かれていますね。僕も食文化を育てたという意味で、メディチ家に喩えられることもあるんです。

それは非常に光栄なのだけど、僕の場合は逆に、支援をしたいがために会社が上場できればいいなという気持ちもあったりする。つまり「支援」が先にあるんですよね。

例えば、東京工業大学の大岡山キャンパスに誕生した国際交流・学生支援施設。これは、隈研吾さんによる設計なんですが、隈さんは小学校の後輩で、昔からの付き合いでね。10年前からお金ができたら提案したいな、隈さんが手がけたくなるようないい場所があるかな、大学が理解してくれるかななんて考えていたわけです。


東京工業大学の国際交流拠点「Hisao & Hiroko Taki Plaza」。(c) Kawasumi・Kobayashi Kenji Photograph Office

小山:大袈裟に言うなら、滝さんは国際交流・学生支援施設を建てるために、懸命に働いてきたと?

:そちらが本当のところですね。だから喜びだらけです。隈さんに設計をしてもらえて、大学や学生に喜んでもらえて、働いた苦労が本当に吹っ飛びます。

小山:いや、頭が下がります! (後編に続く)


たき・ひさお◎実業家・「ぐるなび」創業者兼会長・東京工業大学名誉博士。1940年、東京都生まれ。東京工業大学理工学部を卒業。三菱金属(現三菱マテリアル)を退職後、父が創業した交通文化事業社(現NKB)を継承。85年、NKB取締役社長就任。96年、飲食店検索サイト「ぐるなび」を開設。99年に運輸省交通文化賞を、2003年に東京都功労賞を受賞。2018年、紺綬褒章を受章。2020年、文化功労者に選出される。

こやま・くんどう◎放送作家・脚本家・京都芸術大学副学長。1964年、熊本県生まれ。『カノッサの屈辱』『料理の鉄人』など斬新な番組を数多く企画・構成。商品開発、企業のプロジェクトアドバイザー、熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わる。熊本県のPRキャラクター「くまモン」の生みの親。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)ではテーマ事業プロデューサーを務める。

取材・構成=堀 香織 写真=操上和美(滝久雄ポートレートのみ)

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