リラ売りが膨らんだ要因の一つはトルコの中央銀行への信頼が大きく揺らいでいることだ。「高金利がインフレを引き起こす」。経済学の常識を覆す持説を展開する同国のエルドアン大統領は自らの意にそぐわない総裁や金融政策委員会の委員らを次々と解任するなど、中銀への介入姿勢を強める。
足元ではインフレが高進。トルコ中銀の発表によると、10月の消費者物価は前年同月比19.89%の上昇。2019年1月以来のインフレ率20%超えが近づく。「公表数字自体が実態よりも低め」との見方も少なくない。
だが、トルコ中銀は11月の定例会合で3回連続の利下げを決定。政策金利を従来の16%から15%へ引き下げた。これに伴って名目金利からインフレ率を差し引いた実質金利のマイナス幅が拡大し、リラ売りを誘発する。
それでも、エルドアン大統領は「国民が高い金利に押しつぶされることは絶対に許されない」などと自らの考えの正当性を強調。「通貨の番人」が「金利の敵」を自称する大統領に対して成すすべもないとあっては、リラの下落に歯止めがかからないのも道理だ。
「リラの急落はトルコ経済を攻撃するカネの亡者によるもの」(同大統領)。あくまでも「金利との戦い」に挑む構えの大統領の「暴走」に対し、同国のエコノミストからは「中銀が金融政策を管理する能力を失っている」との声が上がる。
トルコ経済のファンダメンタルズが脆弱なのもリラ売りの一因だろう。特に懸念されているのが外貨準備高の低さだ。外貨準備は通貨当局が急劇な為替相場の変動を抑えるための為替介入や、他国に対する外貨建て債務の返済が難しくなった場合に使う準備資産のこと。トルコ中銀のデータによると、2020年9月には約363億ドルまで減少したが、21年10月時点では763億ドルあまりまで回復している。
ただ、資本流出への備えとしては十分でない。というのも、短期対外債務の残高が同年9月時点で約1680億ドルと外貨準備だけでは賄えない水準に膨らんでいる。返済負担が重くのしかかり、リラ下落に対する為替介入の余力はかぎられているというわけだ。
しかも、リラ安が進行すれば、外貨建て債務は一段と膨らむ。国際通貨基金(IMF)は6月、トルコ経済について分析した報告書を公表。「外貨準備は適正範囲を大幅に下回り、(市中銀行の外貨準備預金などを差し引いた)ネットの外貨準備はマイナスになっている」と指摘した。