短期的にはリラの押し目買いの好機
トルコ統計局によれば、食料品・非アルコール飲料の10月の価格は消費者物価ベースで前年同月比約27%上昇した。このうち、パン・シリアルは同24%、肉は同31%、ミルク・チーズ・卵は同34%、野菜は同33%それぞれ値上がり。物価高騰が消費者を苦しめているのは想像に難くない。
最近のエネルギー価格の急騰も重荷だ。資源小国のトルコは天然ガスや原油の大半を輸入に依存。リラ安や資源高はさらなるインフレをもたらす可能性もある。そうなると、リラの価値は目減りするばかりだ。
トルコの最低賃金は今年1月から手取りで月2826リラに引き上げられた。これまでの高インフレで自国通貨に対する信認がもともと低く、ドルなどの外貨で資産を持つのを好む国民が少なくないとされるが、リラ安でドルベースの賃金も低下。最低水準の賃金しか受け取っていない労働者が全体の半分近くを占めており、家計を取り巻く環境は厳しさを増す。
第一生命経済研究所の西濱徹・主席エコノミストは「自国通貨を保有していても意味がないため消費に回すことで、インフレをさらに加速させるおそれもある」と話す。一時的には個人消費増が国内景気を押し上げても結局、「茹でガエル」と化してしまうだけだ。リラの一段安で外貨建て債務の支払い負担が膨らみ、いずれは債務不履行(デフォルト)のシナリオが浮上するかもしれない。
日本の一部の個人投資家はリラの動向を注視する。外国為替証拠金取引(FX)では人気の高い通貨の一つ。日本のような低金利の国の通貨を売ってトルコや南アフリカのような高金利の国の通貨を買った場合、反対売買で持ち高を整理するまで「スワップポイント」と呼ばれる金利差収益が比較的多く懐に入るからだ。
外為市場の専門家は「1リラ=8円70~90銭の水準は短期的にリラの押し目買いの好機」と語る。だが、「エルドアン大統領が辞任しないかぎり、中長期のリラの下落トレンドに変化はない」(専門家)。次の大統領選挙は23年。少なくとも、それまでは「エルドアン大統領の首に誰も鈴をつけられない」(第一生命経済研究所の西濱氏)状態が続くのだろうか。
連載 : 足で稼ぐ大学教員が読む経済
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