米蒸留酒、クラフト系が急成長 「家飲み」需要追い風

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米国で、原料や製法にこだわって少量生産される蒸留酒「クラフトスピリッツ」の市場が活況を呈している。一般的な蒸留酒を上回る成長を遂げており、3年後には蒸留酒全体の販売額の10%を占めるようになる見通しだ。プレミアム化が消費者の間で功を奏しているほか、コロナ禍での「家飲み」需要も追い風になっている。

酒類市場の調査会社IWSRによると、米国内の2020年の蒸留酒販売量はクラフトスピリッツ以外が前年比約5%増だったのに対して、クラフトスピリッツは8%伸びた。販売額ベースでは、蒸留酒全体に対するクラフトスピリッツの比率は2015年にはわずか3%だったが、2020年には7%に上がっている。

クラフトスピリッツは今後も販売額、販売量ともにシェアを拡大する見通し。2020〜25年にはクラフトスピリッツ以外の米蒸留酒市場の年平均成長率が4%増と見込まれるのに対して、クラフトスピリッツはそれをはるかに上回る21%増を記録すると予想されている。

IWSRはクラフトスピリッツを「保税倉庫から出す量が75万プルーフガロン(9リットルケース40万ケース弱)以下で、認可を受けており、『手造り(クラフト)』をうたう生産業者」によって国内でつくられる製品と定義している。より大手のメーカー傘下にあるクラフトブランドの製品も含まれる。

種類別にみると、米国のクラフトスピリッツ市場で最大のシェアとなっているのはやはりウィスキーで、全体の36%を占める。なかでも、テネシーウィスキーとブレンドウィスキーは今後とくに大きな成長が見込まれるという。ジンは2020年時点のシェアは9%にとどまるが、2025年にかけて年平均23%と最大の伸びを記録する見通しとなっている。

クラフトスピリッツの隆盛にはプレミアム化が寄与しており、米国の消費者はクラフトスピリッツのために高いお金を支払うのを惜しまなくなってきている。IWSRのアナリスト、ライアン・リーは「平均物価の上昇もあって、米国の消費者は高価格帯の商品を買うのに慣れてきた。そうしたなかでクラフト分野はプレミアム化の恩恵を得ている」と解説する。

米国で750ミリリットルのジン1瓶の平均小売価格は16.77ドル(約1900円)だが、クラフトジンの平均小売価格は30ドル(約3400円)を超える。リーはこのほか、各ブランドが地元の原料の使用や熟成、味わいなどで工夫を凝らしていることも人気を押し上げる一因になっていると説明している。

新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)は酒類の店頭販売に打撃を与えた。半面、対応策の一環で行われた規制緩和によって蒸留酒メーカーはオンライン販売に軸足を移せるようになり、自宅で飲む人の需要を商機にできるようになった。

「成長は大幅に鈍化したが、消費者が家飲みに移行したおかげで、クラフト生産者や米国のアルコール飲料市場全体は昨年、予想よりは好調だった」(リー)。販路の拡大やソーシャルメディアのキャンペーン強化によって戦略を変更できた生産者は、大きな見返りを得られたようだ。

2020年は米国の蒸留酒業界にとってけっして楽な年ではなく、閉鎖を余儀なくされた蒸留所は56カ所と過去最多にのぼった。ただ、影響は予想されていたほど深刻ではなく、クラフト分野では蒸留所も33カ所増えている。IWSRによると、クラフトスピリッツの蒸留所は2025年までにさらに265カ所新設される見通しとなっている。

編集=江戸伸禎

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