ライフスタイル

2021.12.05 10:00

中高年の筆者が、中国製スマートウォッチを手放せなくなった理由

松崎 美和子

「996」という勤務状況が需要を拡大


近年、これほど中国のスマートウォッチ市場が盛況なのはなぜだろうか。背景には、いくつかの理由が考えられる。

まず、日本よりはるかに厳しいストレス社会がある。特にいまの中国の若い世代は、結婚のための自動車やマンション購入といったプレッシャーから始まり、子供が生まれると早期教育と受験戦争に突入する。人口が多く、競争が激しい中国は世界最大のストレス社会といっていい。

今日の中国には「朝9時から夜9時まで、週6日間働くこと」を意味する「996」という言葉があるように、1日12時間労働、休みは週1日という勤務状況はそれほど特別なことではない。若年層の過労死を伝える報道も多い。ストレスによる不眠症も目立っており、自分の健康状態を把握したいという需要は増大しているという。


心拍数によるストレス度や血中酸素レベル、歩数計なども表示してくれる

さらに、コロナ禍は人々の健康意識を大きく変えた。それと軌を一にして、GPSやセンサー技術などのテクノロジーの進化が、中国におけるスマートウォッチの積極的な製品開発や普及を後押ししたといえるだろう。

中国では、自ら参加するスポーツやフィットネスに対する関心も高まっている。政府は年齢層を問わず運動を推奨しており、ランニングがブームである。全国各地でマラソン大会をはじめとしたスポーツ大会が増加している。

そのとき、ファッショナブルな流行のスポーツウエアを身に着けるだけでなく、スマートウォッチのようなウエアラブル端末を腕に付けて走るのは普通の光景となっている。運動記録をSNSで公開する人も少なくない。

また、中高年世代には特有の事情もある。ある上海在住の同年代の友人は、最近自らが参加したサイクリング大会の写真を送ってくれるようになった。彼は日本留学中もそうだったが、帰国してからも働きづめの日々を送り、ついにはあるIT企業のCEOとなったが、数年前、ガンで生死の境をさまよい、なんとか命拾いした。それ以来、別人のようなさっぱりとした顔つきになり、「大事なのはお金ではない。健康だ」と話すようになった。

これはまったく他人ごとではない話である。同時に、この30年間、激動する中国社会を生きてきた彼らのプレッシャーがどれほど大きかったのか想像を絶するものがある。

先日、筆者がPCの前に座って原稿を書いていると、左腕がビビッとした。見ると、「この時間は起立していません。リラックスしましょう」と表示された。ある一定時間以上、座ったままだと教えてくれるのだ。以前なら小うるさいと感じたかもしれないが、いまでは「はい、そうですか」と立ち上がって、コーヒーでも沸かそうかと思うようになった。

若い人ならすぐに使うことに飽きてしまうかもしれないが、筆者のような中高年にとっては終わりのない身体の悩みと付き合ううえで、スマートウォッチをうまく使いこなすことは悪くないと思うようになった。もうこれは手放せないと感じている。

連載:東京ディープチャイナ
過去記事はこちら>>

文=中村正人

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事