いま、東京で生きる若者たちのリアル。映画「スパゲティコード・ラブ」

映画「スパゲティコード・ラブ」 (c)『スパゲティコード・ラブ』製作委員会

IT用語で「スパゲティコード」という言葉がある。わかりやすく言えば、構造が複雑に入り組んでいて、つくった当人以外には解読が困難なプログラムのことだ。絡み合ったスパゲティに喩えて、こう呼ばれている。

現代の東京で暮らす13人の若者たちの、スパゲティコードのように錯綜した愛情や希望や自己確認などを、卓抜した映像で描いているのが映画「スパゲティコード・ラブ」だ。

それぞれの物語を同時並行で追っていく群像劇だが、鮮やかな場面転換と個性豊かな俳優陣の演技で、ともすれば散漫になりがちな作品を完璧なまでにまとめあげている。監督は、CMやミュージックビデオ(MV)を中心に活躍してきた丸山健志(たけし)。この作品が本格的な劇場用劇映画の第1作目となる。

緻密に練られた脚本と巧みに編集された映像


丸山健志の名前を知ったのは、ミュージシャン大沢伸一のソロプロジェクトであるMONDO GROSSOの「ラビリンス」という曲のMVでだ。女優の満島ひかりをボーカルにフィーチャーしたこの曲のMVは香港で撮影され、5分15秒にも及ぶ作品が「ワンシーン・ワンカット」で撮影されたような設えになっている。

MVでは、香港島の北東の「益昌大廈」という密集する巨大集合住宅からスタートして、迷路のように広がる食堂や店舗の間を踊りながら歌う満島をカメラが追い続ける。ワンシーンのように撮影されてはいるが、実は香港島と九龍半島の3カ所で撮影されているらしく、最後はすべての店が閉まった真夜中の路地で終わる。

このMVを初めて観たときの驚きは鮮烈で、10回くらいは観直している。何よりも音楽に合わせて細部まで緻密に計算された美しい映像に、思わず「丸山健志」というスタッフクレジットを確認した。

映画「スパゲティコード・ラブ」は、前述したように、その丸山が初めて監督した劇場用劇映画だ。海外ではデヴィッド・フィンチャーやスパイク・ジョーンズなどMV出身の映画監督が多数活躍しているが、日本ではまだあまり例を見ない。映像としての完成度は高いのだが、肝腎の登場人物たちのドラマの部分が物足りなかったりするのだ。

しかし、それは杞憂に過ぎなかった。丸山監督の「スパゲティコード・ラブ」は、緻密に練られた脚本と巧みに編集された映像によって、それらを軽々と払拭するクオリティの高い作品となっている。
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文=稲垣伸寿

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