東京を描いたエモーショナルな風景画
丸山健志監督は、1980年、石川県金沢市生まれの41歳。2004年に監督と脚本を務めた自主製作映画「エスカルゴ」が、ぴあフイルムフェスティバルで入賞。以後、CMやMVなどの映像分野で活躍、2015年にはドキュメンタリー映画「悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46」のメガホンもとっている。
「いまの若者のもがきを撮りたいと思った。当初の登場人物は5人だったが、それだと5人の人間性を描くのが主題になってしまう。でも13人にすれば、自分が撮りたいものが伝わると考えた。多様化する社会で、価値観がそれぞれあっても、考えていること、悩んでいることは似ているのではないかと思った」
東京国際映画祭のイベントに登壇した丸山監督は、13人の群像劇となった理由をこのように語ったが、「悩んでいても、自分だけじゃないということを表現したかった」とも明かしている。
そして蛭田直美によるオリジナル脚本についても、「脚本が優れているので、編集でも苦労することはなかった」と謙虚に称賛の辞を述べている。とはいえやはり丸山監督の映像へと転換する技巧も素晴らしく、登場人物たちの複雑な交差を浮つくことなく、きちんと整えて描いている。最後まで物語から目が離せないのもそのあたりの監督の真摯さからくるものかもしれない。
また劇中には「東京は1回来てしまったら、もう帰ったら負けになるところ」、あるいは「東京は夢に殺される場所、叶っても叶わなくても」というセリフも登場する。渋谷のスクランブルスクエアをはじめ、東京のホットスポットをロケ地に選び、この街の最新の表情を「14番目の登場人物」として描いているという声も聞く。
「上京して20年。東京を舞台にしたのも、この街のカオス感とリンクすれば、自分の映画のスタイルになる。とにかく、いまの東京を切り取りたかった」
こう語る丸山監督だが、その試みは13人の若者たちのドラマを通して見事に表現されているように思える。そういう意味で言えば、群像劇ではあるが、最新の東京を描いたエモーショナルな風景画でもある。
冒頭をはじめ何度か印象的な映像とともに、MV「ラビリンス」で主役を務めた満島ひかりも登場するが、ひと世代上である彼女の存在は、13人の登場人物たちのリアルに対置するファンタジーとしての役割を果たしているのだという。
いずれにしても丸山監督は「スパゲティコード・ラブ」で、これまでに類を見ない斬新な劇映画の作法を随所に見せている。まるで、いまの東京とそこに暮らす若者たちを描くのには、その表現方法しかなかったかのように。
連載:シネマ未来鏡
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『スパゲティコード・ラブ』11月26日(金)渋谷ホワイトシネクイントほか全国公開/配給:ハピネットファントム・スタジオ