物語は、それぞれ何らかの悩みを抱える13人の若者たちを、スピーディーなシーンの切り替えしでテンポ良く描いていく。登場人物たちのリアルなセリフと少し哲学的な警句も随所に散りばめられており、物語への共感を誘発する細心の演出ともなっている。
ウーバーイーツの配達員である羽田天(倉悠貴)は1000回配達を達成したら大好きなアイドルへの想いを断ち切ると決めている。
ウーバーイーツの配達員、羽田天(倉悠貴) (c)『スパゲティコード・ラブ』製作委員会
シンガーソングライターをめざす桜庭心(三浦透子)は音楽で生きていくという夢を諦めかけている。ゲストハウスを転々としてノマド生活を続ける大森慎吾(清水尋也)は生命線であるスマホと財布を失くしてしまう。その「恋人」であるモデルの綾瀬夏美(香川紗耶)は中年男性との援交を続ける。
シンガーソングライターをめざす桜庭心(三浦透子) (c)『スパゲティコード・ラブ』製作委員会
カメラマンの氷室翼(古畑新之)はアシスタントをしながら独り立ちの仕事を狙っている。氷室とSNSで繋がる不登校の高校生である小川花(上大迫祐希)は彼の言葉を信じて地方から上京する。広告クリエイターの黒須凛(八木莉可子)は周囲から「親の七光り」と言われ自らの才能にも限界を感じている。
カメラマンの氷室翼(古畑新之) (c)『スパゲティコード・ラブ』製作委員会
高校生の赤羽圭(青木柚)と千葉桜(xiangyu)はいつもどのように死ぬかについての会話を続けている。中学生の宍戸一樹(三谷麟太郎)はコンビニのイートインで生涯予定表に記入したり消したりを繰り返している。
失恋した渋谷桃子(佐藤睦)は元カレとの復縁を願って怪しげな占い師にお金を注ぎ込んでいる。彼女の隣室に住む引き篭もりの目黒梅子(ゆりやんレトリィバァ)はストレスによる過食をやめられない。カフェで働く剣持雫(土村芳)は妻子ある恋人との恋愛に夢中だ。
引き篭もりの目黒梅子(ゆりやんレトリィバァ) (c)『スパゲティコード・ラブ』製作委員会
この13人が、あるときは同じ場所ですれ違ったり、またあるときは正面から絡みあったりしながら物語は進行していく。人物紹介も兼ねる前半では、行動と本音の乖離をそれぞれのモノローグで表現していて、「負の部分」で笑いも誘う。
また中盤からは、登場人物たちが同時に吐く「やば」という言葉をきっかけに、物語に大きな展開が生まれていく。このあたり脚本の素晴らしさが際立っている。それを美しいスタイリッシュな映像に落とし込んでいく監督の手腕も「ラビリンス」のPVで見せていた技術の高さによって裏打ちされている。