ビジネス

2021.11.29

世界市場覇者アマゾンが飲み込む、データ駆動型のヘルスケア


背景には米国の勤労者医療保険料・医療費の高騰がある。2018-2019年1年間に米国の勤労者医療保険料は5%上昇し、同時期のインフレ率、賃金上昇率を上回った。勤労者自身の負担も重く、2009年からの10年間で保険料は世帯平均で54%上昇、自己負担額は平均71%も上昇している。

こうした高い医療費負担が米国企業の国際競争力を削いでいると長年いわれてきたが、状況は現在も変わっていない。すべての米国企業に共通、特にグローバル大手には深刻な課題として認識されてきた。そこでHaven Healthcareが創設されたのだ。

米国の医療保険の多くは、民間の保険会社が販売する保険商品で、価格にも規制がない。ほかの先進諸国と違って公定価格がないので、不透明でわかりにくい交渉が行われ、煩雑な事務手続きが必要となり、医療機関の経費を大幅に押し上げてきた。

こういった従来型の「遅れた」業界こそ、プラットフォーマーが得意とするターゲットだ。しかも米国の医療の市場規模は世界最大だ。2019年の米国の医療費は約400兆円で、このうち民間企業の医療費負担は約80兆円に上る。アマゾンが新規ビジネスをしかける市場としても十分な規模だろう。

アマゾン・ケアの診療内容は一般的なプライマリ・ケア(インフルエンザやアレルギー等の診断・治療・投薬、慢性疾患のケア、軽度の外傷のケア)から予防医療(感染の検査や予防接種等)、軽度の抑うつ症のケアもできる。

アプリは、早期診断・トリアージで無駄な受診を減らしつつ、逆に必要な検査や治療は往診で届けて確実な早期治療を実現する。結果的にコストを下げ、医療の質を上げる。処方薬はオンライン薬局と宅配の連動でサービスのスピードアップとコスト削減をはかる。新しいモデルのプライマリ・ケアだ。

アマゾンは2018年にオンライン薬局「ピルパック」を買収。それをもとに20年秋には「アマゾン・ファーマシー」を設立。物流のノウハウも活用した処方薬のオンライン提供サービスも可能になる。

現在、アマゾン・ケアを提供されているのは、アマゾン本社のあるシアトル市を中心にワシントン州内在住在勤のアマゾン社員。しかし、今後は全米50州のアマゾン社員(約80万人)に順次展開する計画で、他社へのサービス提供も予定しており、ウェブから企業の申し込みを受け付けている。
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文=西村由美子 イラストレーション=ムティ(フォリオアート)

この記事は 「Forbes JAPAN No.085 2021年9月号(2021/7/26発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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