新型は、スポーツ性を犠牲にせず、快適性も高めている。正直なところ、先代WRXの走行性能はとても良いと感じていた。でも新型は、シャシーが新しいからこそ、コーナーではうまい具合にラインをトレースしてくれる。コーナリングの限界辺りでは、先代はシャシーが負け出していたので、コントロール性が多少曖昧になっていた。でも、新型では、その新シャシーがコーナリングフォースを上手に受け応えてくれて安定性をどっしりと保つ。つまり、シャシーやボディがしっかりしているから、どこまで追い込んでも新型は最後まで信用できる。特に高速コーナーで、フロントの内輪がめちゃ噛んでくれるし、リアもピタッとついてくるから、総合ハンドリングの向上は先代よりケタが違う感じ。とは言っても、もちろんオーバースピードでコーナーに進入したら、フロントタイヤが流れてアンダーステアが出るけどね。
しかし、僕としてはブレーキをもう少し強くしてもらいたいと思った。
当然、普通の運転では全く問題ないというか、制動力は全然足りるけど、ちょっと元気に走行した時のために、制動力を上げると同時に、ブレーキフェード性も気持ち上げて欲しい。
サスペンションも、うねりでクルマがジャンプして着地した時の収まり感は素晴らしい。と言うことで、スバルらしい味付けは健在と言える。
キャビンの黒と赤2トーンのカラーコンビネーションも大人っぽい印象。コックピット周辺のデザインは「レヴォーグ」のテイストを踏襲しているし、全体的にマテリアルの質感は向上している。全車、ステアリングホイールはレッドステッチ入りの本革巻きとなる。クラストップの運転支援システム「アイサイトX」は、11.6インチの巨大な縦型タッチスクリーンと連携しており、そのメニューは使いやすい。それにスイッチ類を極力減らしているので、ダッシュボードは今風でスッキリしている。でも内装で使われた赤は、残念ながらくすんで見える。もっと鮮やかな赤を使っていたら、元気でイキイキするし、女性ユーザーにもウケそうだ。
エンジンがパワーダウンしたにもかかわらず走行性能が向上し、CVTの8速ATの有段フィーリングも売りのポイントだろう。また黒い樹脂パーツのおかげで車体が薄く見えることと、室内もさりげない上品さとハイテクなコントロールを採用したことで、新型WRXは大人っぽくなったと言える。438万円からのプライスも(Sport R仕様は477万円〜)リーズナブルではないか。どうして今回、こんなに頑張ったかと技術者に聞いてみた。「それは来る電動化社会を目前に、できることを出し惜しみせず、やりきっておきたかったから」だという。さすがスバル。
国際モータージャーナリスト、ピーターライオンの連載
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