世界トップティア企業による日本のユニコーンの買収──。「超大型M&A」はどのように行われたのか。現在発売中のForbes JAPAN1月号「起業家ランキング」特集では両社への独占インタビューを掲載している。
──M&Aに至る経緯は。
ラッセル・カマー(以下、カマー):ペイパルとは、19年11月のシリーズCエクステンションラウンドでPayPal Venturesから投資を受けてから、非常に良好な関係を築いてきた。突然はじまったわけではなく、数年かけて互いにリスペクトしながら協力体制を築いた。事業的に非常に相性がよく、世界3位の規模をもつ市場でありながら、特にEC分野でのキャッシュレス化が出遅れている日本には大きなチャンスがあるという意識を共有していた。必ずしも資本関係の話ではなく、お互いが事業成長をするために何ができるか、を話してきた。
それが実現したのが21年4月、デジタルウォレットの支払い方法として「ペイディ」を選択できる新機能「どこでもペイディ」提供開始の第一弾としてペイパルとの連携だった。ペイパルでの買い物やサービスの支払いにペイディが利用できるサービスだ。
ピーター・ケネバン(以下、ケネバン):私がペイパルに入社したのが、2021年4月。ペイパルは20年以降、日本を最重要成長市場のひとつと捉えている。私の任務は、ペイパルの日本事業を10倍に拡大すること。ペイパルは、世界全体で4億以上の稼働口座を持ち、加盟店は3300万に達する、巨大なグローバルネットワークを有している。日本でも10年の歴史があり、越境EC市場ではプレゼンスはあるが、さらに日本市場を拡大し、プレゼンスを獲得するために、ローカル企業と組まなければいけないことはわかっていた。
Paidyは、これから需要が高まるだろうBNPL(バイ・ナウ・ペイ・レーター)のなかで、日本市場を深く理解して、日本にフィットした商品、ビジネスモデルや戦略を構築している。それに加えて、ラッセル、陸(杉江さん)をはじめとしたチームがいる。日本とグローバルの両方を理解している海外勢、グローバルな日本人勢の融合している、どこを探しても見つからない素晴らしい組織・チームがあること。この3つの掛け算から、事業面で最適な相手だと思っていた。
杉江陸(以下、杉江): とはいえ、ご承知の通り、私たちはIPO(新規株式公開)に向けた準備をしてきた。上場のため、事業成長、スケールするためにはどうしたらいいか、を考え続けてきた。資本関係について話をしてきたわけではない。(4月からM&Aの動きがはじまったという報道があったが)直前まで私たちは上場するつもりだった。