政治は右、経済は左?

伊藤隆敏の格物致知


第五に、自民と立憲民主との経済政策の争点があいまいになったことだ。岸田総理は「新自由主義からの決別」「新しい資本主義」「分配と成長の好循環」というキーワードを並べて、これまでの自民党政権よりも分配に傾斜した経済政策を示唆したことで、立憲民主党による安倍・菅政権による格差拡大批判、分配重視の経済政策と区別がつきにくくなった。

経済政策議論では、岸田総理の左旋回が功を奏したように見える。ただし、維新は「所信表明演説に『改革』という言葉がなかった」「分配のためには成長が先」だとして岸田政権を批判、経済政策で改革を重視する保守層(「右」)の受け皿になった。

総選挙に勝利した岸田政権は、支持率も上向いて(NHKの11月の支持率は53%)、これから経済政策のスローガンの具体化、補正予算、来年度予算の策定に入っていく。また、連立与党の公明党が要求する、18歳以下の全員に10万円相当を給付する案には、所得上限を設けることで自公が合意した。

10万円の給付は子育て支援ということだが、その目的(大賛成だ)を達成するには、一回限りの10万円給付ではなく、もっと総合的な対策を提案すべきではないか。都市部では待機児童はまだゼロにできていない。入園時期は事実上4月に限られ、希望の認可保育園に入れるためには、いくつかの条件(ポイント)をクリアする必要がある。これらの問題を解決することが、本来の子育て支援だろう。(11月10日記)


伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学客員教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002~14年東京大学教授。近著に『Managing CurrencyRisk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。

文=伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN No.089 2022年1月号(2021/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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