ビジネス

2021.11.25

建設業界のデジタルリーダーへ、アンドパッドが挑む「長くて深い戦い」

アンドパッド代表取締役 稲田武夫


今後、「ANDPAD」は、まだ満たされていない顧客ニーズにどう応えていくのか。稲田は3つの戦略を掲げている。まず1つは、「メッシュ化」だ。

「建設業界といっても、住宅、商業施設などさまざまなセクターがあり、現場もそれぞれ大きさが違います。セクターと大きさをかけ合わせると、解決すべき課題はいくつもあります。そうやってインダストリーを網の目に分解していくと、まだソリューションを提供できていないものも多い。強いプロダクトを他産業に展開するのではなく、開いている穴をひとつずつ埋めていきたい」

この1年、とくに力を入れてきた穴が内装、外壁、水回り、電気などの専門工事だ。例えばエアコンの取り付けなど1日に多数の現場を回る小さな工事向けに、ホワイトボードで行っていたスケジュールなどの情報管理をクラウド化した新プロダクトをリリースしたのも、メッシュ化戦略のひとつだ。

ニッチなところを拾うのは非効率ではないか。そう問うと、稲田は「ニッチと思ってもらえるならありがたい」とニヤリ。

「建設業界全体がとてつもなく大きいので、専門工事ひとつだけでも大きい。ニッチだと思われて他社がやらないなら、我々がやる意味があります」

2つ目は、プロダクト・プラットフォーム戦略だ。建設には、施工管理以外にも、受発注、入金、原価計算などさまざまな業務がある。それらを管理するプロダクトを開発して、さらに経営までつながるデータ環境を構築することで、効率化をサポートする。

3つ目は組織展開だ。この1年で社員は倍増して539人になった(21年10月1日時点)。規模が大きくなると求心力を保つことに苦心するケースが多いが、むしろ意識しているのは遠心力だ。

「我々だけで業界すべてをカバーできないので、遠心力を働かせていろんなパートナーとやっていくのは当然です。また、我々の会社からデジタルの人が外に散らばっていくほうが業界のデジタル化は早く進むでしょう」

稲田の目には、勝ち筋がはっきり見えている。ただ、本人が「長くて深い戦い」と形容するように、巨大な建設業界にデジタルを浸透させるのは長期戦になるだろう。起業家にはゼロイチ好きが多いが、はたして最後までやり切れるのか──。

「答えがわかってしまったら、やり切ろうとしない人もいるでしょうね。ただ、私は違う。答えの方向がぼんやり見えているけど、やるのに時間がかかってみんなが投げ出すような課題に向かうほうが燃えるんです」

文=村上 敬 写真=平岩 享 ヘアメイク=内藤 歩 プロップスタイリング=ORIN

この記事は 「Forbes JAPAN No.089 2022年1月号(2021/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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