阪大「伝説の講師」がプレゼン資料を用意しないイケズな理由

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大阪大学に、2005年から10年以上続いた「伝説の講義」があった。「日本国憲法」。金曜の1限、午前8時50分という開始時間にかかわらず、エリート学生を釘付けにし、300人以上の大講義室が毎回、満員になった。「DJマユミ」の恋愛講義が人気を博したのだ(参考:一限目でも欠席なし。阪大・伝説の恋愛講義「冒頭10分の秘密」とは)。

その講義を担当した伝説の講師が、谷口真由美氏だ。東京オリンピック・パラリンピック組織委員会元会長の森喜朗氏から、「わきまえていない女」とも解釈できる発言があった、日本ラグビーフットボール協会の元理事としても知られる。

TBS「サンデーモーニング」を始めテレビへの出演も多い人気プレゼンターでもあり、ベストセラー著書『おっさんの掟』でも話題の谷口氏に、学生の心をつかんだ講義(プレゼン)の極意、そして講演会で聴衆を引きつける秘訣を聞かせていただいた。

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プレゼンでは「あえてのイケズ」と「ジャブ」を


私自身は人前で話す時、手元のカンペを一切使いません。ジェンダーやオリパラ、人権、憲法、ハラスメント、SDGsなど講演のテーマはさまざま、場所も多様ですが、いずれもオーディエンスの反応を見て、話す内容を「出し分け」しているためです。

資料も基本的に、配りません。ライブのプレゼンでは、「書いたもの」は負の効果を及ぼすことがあると思っているからです。

パワーポイントで資料を作って「後からシェアします」と言ったり、話す前に「これから話す内容です」と資料を配ったりすると、オーディエンスのみなさんは「資料に逃げてしまう」。すなわち、「あとから読めばいいや」と思ってしまうんです。事後に上長にレポートしなければならない場合も、話をたとえ聴いていなくても資料があれば、後から書き起こすことができますから。

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法学者の谷口真由美氏

いろいろなところでお話をする際、私は地域性や、オーディエンスのペルソナによって、まずは軽く「ジャブ」を入れて反応を見ます。いわば「アイドリング」的な力の抜き具合で、オーディエンスの顔色を見て話を変える。そうすると大体うまく行きますし、また聞きたい、と言っていただけます。それに、今日は会場で寒そうな方が多いなと思ったら、講演の途中でも「すみませーん、会場のご担当の方、寒そうな方が多いので温度をあげてもらえますか?」ということもあります。

なので、会場を真っ暗にしないで、オーディエンスの顔が見えるようにして、反応を見ながら話の内容を少しだけチューニングしたり、順序を調整したり、要素を選んだりするといいと思います。できれば会場を事前にロケハンして、広さとか照明をチェックしておくことをお勧めします。少し気になることがあれば、会場の係りの方に言えば、ほとんどちゃんとご対応くださいます。

書いた資料を使いすぎると「舞台裏」を見せることになる。「見切り(歌舞伎などで、舞台の両わきから見える舞台裏をかくすために出す大道具のこと)」が悪いと、舞台裏が見えてしまうんです。だから「あえてのイケズ(意地悪)」で、「今話していること」に集中してもらうのがいいんです。
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文=石井節子

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