「上井草グリーンハイツ」そのキラーコンテンツとは。奇跡の大改装劇のすべて

上井草グリーンハイツ竣工当時のエントランス 写真提供:カウエモン(上井草グリーンハイツ)

「こんなマンション、誰が住むんだろう?」

通行人が思わずそう呟いた、昭和53年(1978年)に建てられた築43年の賃貸物件。

かつては入居者のほとんどを子育て世帯が占めていたが、物件の経年劣化とともに少しずつ入居者が減少し、空室率60%を超えるにまで至っていた。その物件が、「上井草グリーンハイツ」だ。

東京の住みたい区ランキングでも上位に来ることが多い東京都杉並区。上井草グリーンハイツは、そんな多くの人にとって魅力的に映る、いまだ緑が多く残る区の北側に位置する。

二代目オーナーの渡邉憲一とリノベーションを担当したヤシマ工業の臼井徹は、この古びた物件を建て直しでもなく、大規模修繕でもない、「再生リノベーション」というかたちで生まれ変わらせることを計画した。その再生の物語を前編、後編に分けてお届けする。

前編では、家族構成や働き方など多様性も含めたダイバーシティーを意識しつつ、「適度な尖り」を取り入れたリノベーションが入居者から高い評価を受け、テレビにも取材されるほどの人気物件となるまでの全容を公開した。

本後編では、避けることのできない「資金の工面」について、また、リノベーションにおける「キラーコンテンツ」をおさえ、入居者の支持を得ることができた背景について触れていく。

カウエモン(上井草グリーンハイツ)代表取締役 渡邉 憲一
ヤシマ工業 常務取締役 西松 みずき
ヤシマ工業 技術営業部チーフ 臼井 徹
ヤシマ工業 技術営業部 武田 優之
インタビュワー:曽根 康司

前編>>>空室率60%からの起死回生。築43年「上井草グリーンハイツ」の奇跡


ファイナンス思考で捉えたリノベーションのリアル


コンセプトが固まる一方で、どうしても考えなければいけないことがある。資金の工面である。

上井草グリーンハイツの場合、時間が経過していることもあり、建設時のローンの支払いを終えていたことが大きかった。通常、残債がある物件に対して追加の融資を得ることは難しいからだ。また、断熱工事に関しては、臼井のアドバイスもあり、国の助成金を活用することができた。結果、建て直しでは20億円かかると見られていたコストは、リノベーションにおいては3分の1から5分の2の範囲に収まった。

前編で触れた通り、渡邉は競馬の分析を独自の指標で行い、万馬券を二日連続で当てたこともある計数管理能力の持ち主である。建て直しに20億円もの投資をして数十年単位で回収することにリスクを感じていたことも、リノベーションを選択した理由の一つだ。

物件は生き物であり、小さな修繕が絶えず必要となる。天災等による予期せぬ出費も付きものだ。さらには社会情勢や周辺環境の変化、競合物件の登場などもある。全てを読み切ることは不可能に近い。たとえリノベーションが無事終わっても、即安心というわけにはいかない。そのため、渡邉は10年単位でのシミュレーションを考えていたのだった。

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再生リノベーション前の中庭 写真提供:ヤシマ工業
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文=曽根康司 編集=石井節子

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