入居率は45%から94%、坪単価は1階が最高値に
下の表に注目いただきたい。リノベーション前の2014年3月末から直近の2021年10月末の1階の入居率の変化である。39.13%だった1階の入居率は95.24%まで上昇している。(2室は「キッズ・ルーム」と「ミーティング・ルーム」に変更)なお、物件全体でも45.07%から94.20%になっている。
入居率の変化(2014年3月から2021年10月) データ提供:カウエモン(上井草グリーンハイツ)
もう一点、注目すべきは一般的に一番家賃が低いとされる1階の坪単価の上昇である。
データ提供:カウエモン(上井草グリーンハイツ)
専用庭といった付加価値を付けるリノベーションによって、1階の坪単価が一番高くなっている。渡邉の独自調査によると2014年、杉並区のJR3駅のマンションの平均坪単価は6263円だったそうだ。現在は全ての階において、それを上回っている。築年数を考えると大変な成果と言える。
なお、敷地内樹木の維持管理には年間80万円程度かかっているが、渡邉はこれを上井草グリーンハイツの付加価値を生み出す源泉の一つであると考え、ためらうことなく現在も必要経費として支出している。
リノベーションにおけるキラーコンテンツとは
リノベーションにおけるキラーコンテンツとは何か? 写真や映像でダイレクトに伝わってくるエクステリア(外観)やインテリア(内観)の変化に目がいきがちであるが、これらはハード面の変化の一部に過ぎない。上井草グリーンハイツにおいて、入居者から大きく評価されたのは「セキュリティ」と「断熱」だった。いわばハードの変化がもたらす内面(ソフト)の居住性アップだった。
リノベーション前の上井草グリーンハイツにはオートロック等の「セキュリティ」がなく、近所の人が通り抜けに使うような場面もあった。セキュリティの向上は特に1階の住人には喜ばれた。
もう一点は「断熱」である。国の助成金も受けつつ行った断熱であるが、具体的には外壁に約80mmの断熱材を施工し、窓サッシと玄関扉の交換を行っている。断熱効果は顕著で、住人によっては冷暖房を付ける頻度が劇的に下がっているそうだ。光熱費が削減できることは嬉しい限りだが、何より室温が安定した空間で居住できることは健康面においても非常に重要である。なお、断熱は省エネ効果も大きく、共用部分の照明のLED化も奏功し、電力消費は全体で約40%削減された。
断熱材の施工現場 写真提供:ヤシマ工業
「キッズ・ルーム」と「中庭」がもたらした価値
キッズ・ルーム 写真提供:ヤシマ工業
思いがけない結果としては「キッズ・ルーム」と「中庭」の活用があった。2020年の初頭から新型コロナウイルス感染症という未曽有の事態が訪れ、ステイホームを余儀なくされた家庭の生活において重要な役割を果たしたのだった。
上井草グリーンハイツでも多くの住人がステイホームや在宅勤務を強いられ、成長過程の子供がいる家庭では保育園・幼稚園の休園があり、子供の遊び場の確保がしにくい状況が発生した。また、在宅勤務の成人も気分転換の場や、日に当たるいった、それまでの日常行為をどう確保するかが課題となっていった。「キッズ・ルーム」や「中庭」はこれらの課題に対して、一定の解決案を提供する場となったのだ。