今年話題の2ブランドから考える、ラグジュアリービジネスの行方

(c) CFCL

2021年度の「毎日ファッション大賞」新人賞・資生堂奨励賞が、「CFCL」のCEO、高橋悠介さんに贈られました。

ブランドネームのCFCLは、「Clothing for Contemporary Life(現代生活のための衣服)」の頭文字から生まれたもので、まだ立ち上がって一年あまりというのに、海外にも販売網をもち、日本でも各種メディアにとりあげられてまたたく間に知名度を上げました。

3Dニットに特化しており、デザイナーのエゴを強く出さないモダンで風通しの良いデザイン性も好感がもてるのですが、なによりもブランドコンセプトに今っぽさを感じました。「ソフィスティケーション、コンシャスネス、コンフォート&イージーケア」。サステナビリティを今さら打ち出していないところが、「時代をおさえている」という印象です。



コンシャス・ラグジュアリーとは


ここで使われている「コンシャスネス」ですが、実は現在のラグジュアリービジネス業界のキーワードになっているのが、ほかならぬ「コンシャス・ラグジュアリー」です。

2000年代の初めから、「エシカル(倫理的な)ラグジュアリー」という言葉が使われ始めたのを筆頭に、ラグジュアリーには形容詞をつけて語られるようになりました。2008年あたりには「リスポンシブル(責任ある)ラグジュアリー」がバズワードとなり、その後、「サステナブル(持続可能な)ラグジュアリー」へ。2017年頃からは、「コンシャス(意識の行き届いた)ラグジュアリー」という語が主流となっているのです。

サステナブルからコンシャスになった理由は、一つには、言葉そのものが流通しすぎて陳腐になったこと、さらに、サステナビリティが選択肢ではなく当然の前提になっていることが挙げられます。

こうした用語は誰が最初に用いたかということは特定できませんが、英ファイナンシャルタイムズが主催するラグジュアリー業界の年次会議などを通して一気に認知度を高めてきました。

ここでいうコンシャスとは具体的にどういうことかといえば、次のようなことです。

地球環境に配慮していること、生産から廃棄に至るすべてのプロセスにおいて透明性が確保されていること、人権が考慮されていること、文化の盗用をおこなっていないこと、フェアな商取引がおこなわれていること。そうしたすべてに対して意識が行き届いたラグジュアリービジネスをおこなっていることが、コンシャス・ラグジュアリー。さらにいえば、ビジネスをおこなう送り手の自覚も含まれましょう。

実際、「コンシャスネス」を掲げるCFCLの高橋さんは、受賞インタビューで「次世代のために責任を果たしたい。ゼロから自分の会社を設立すれば、最初は小規模だとしても、責任をもった、一貫したもの作りができる」と語っています。ブランド名に自身の名を投影しなかった理由についても、「デザイナーの美意識を投影する衣服を作るより、社会に対する意思表示を明確に示すことが重要」と答えています。
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文=中野香織(前半)、安西洋之(後半)

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