今年話題の2ブランドから考える、ラグジュアリービジネスの行方

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米国の戦略コンサルタント企業・ベイン&カンパニーは、ラグジュアリー領域に関する2000年から2008年までの期間を「大衆化」と特徴づけ、リーマンショックからの回復以降のおよそ5年間を「中国人市場の拡大期」と区切りました。そして2015年周辺からの時期を「ニューノーマル」と名づけています。その頃から、新しいラグジュアリーが探られ始めたと見て良いです。

16歳からファッションモデルとして活動し、現在は米国でサステナブルファッションのシンクタンクを主宰しているハンガリー人のサーラ・ベルナートも同様の見方をしているようです。

彼女は今年、博士号を取得したのですが、ソーシャルメディアでその報告をするに際し、次のように綴っていました。

「2015年頃、『ヒューマニティ・ラグジュアリー』や『コンシャス・ラグジュアリー』という言葉がでてきました。そこでさまざまな市場分析レポートを読んだのですが、それらの表現の深い意味を把握できているとは思えなかったのです。心理学やマーケティング、デザインを学部や修士課程で勉強してきましたが、フンボルト大学博士課程で自らラグジュアリーを研究しようと決意したのは、これがきっかけでした」

ブルネロ・クチネリから得た気付き


この投稿で、ぼくは彼女にとって鍵となった2つの言葉を知り、どれだけの頻度で英語の書籍において使われてきたのだろうとGoogle Ngram Viewerで調べてみました。

まず「ヒューマニティ・ラグジュアリー」は検索にマッチしません。まあ、ヒューマニティはあまりに当たり前すぎて、書籍に記載されるまでもないのかと思いました。次に「コンシャス・ラグジュアリー」を入れたら、下記のグラフとなってでてきました。これを中野さんに共有したのが、今回のテーマのスタートです。



社会的な関心や注目の方向としては、中野さんの書かれたようなところだと思います。言葉の選択に好みはあるかもしれませんが、ぼく自身は、「人々の社会意識への高まり」として捕まえていました。環境はのっぴきならない状況になりつつある。同時に、ジェンダーギャップや人種差別など人権に対する人々の感度は増してきた。この連載も、その前提の上で進めてきました。

しかし、「待てよ」という思いが、この2週間、徐々に強くなってきました。「本当にぼくは分かって書いてきたのだろうか……」と考え始めたのです。その契機は、10月28日、ミラノのストレーラー劇場でファッション企業「ブルネロ・クチネリ」の家族財団が開催したプレス発表です。 

1978年にイタリア中部のウンブリア州で創業したブルネロ・クチネリは、1985年から、人口およそ500人の小さな村・ソロメオで中世からある丘の上の街を再生。それが完成すると今度は平野の風景を美しくすることに尽力。パンデミック下においては、在庫になった商品を世界中の困った人たちにプレゼントしました。


ブルネロ・クチネリの本社があるソロメオ村

クチネリ氏が、「この次に、“人間らしい社会”のために貢献するには何をすべきか?」と自問した結果導かれた答えが、ソロメオに「ユニバーサル図書館」をつくるプロジェクトです。
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文=中野香織(前半)、安西洋之(後半)

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ポストラグジュアリー -360度の風景-

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