29歳、闘病生活で得た確信
経営者としての転機になったのは17年、29歳のころのことだ。悪性リンパ腫と診断され、治療のため約半年間、仕事を離れざるをえなくなった。「それまでは自分が信じる社会の実現に向けて、思いだけで突っ走ってきました」と米良。一方で、周囲の起業家や投資家からは「社会貢献とビジネスとしての成功は両立しないのでは」などと懸念を示されることも少なくなかった。
「やると決めたら聞かない性格なので周囲の指摘はあまり気にしていませんでしたが(笑)、療養をきっかけに、経営者としての姿勢を落ち着いて見つめ直したいという気持ちが生まれて。病床で100冊以上の本を乱読しました」
特に印象的だった一冊が、渋沢栄一の『論語と算盤』だった。「論語」は道徳、「算盤」とは利益を追い求める経済活動を指す。渋沢は本書で、この両者を調和させることの重要性を説いている。つづられた言葉をじっくりと追っていくうち、力強く背中を押されるような感覚があった。起業当時は大学院生だった米良。あくまで個人の直感として大切にし続けてきた「社会性と収益性の両立」は、知識の裏付けを経て、確固たる経営哲学に変わった。
米良の視界はいま、以前にも増してクリアだ。自身を「スタートアップ領域とソーシャル領域、両方に足を突っ込んでいる人間」と位置づけ、事業を取り巻く環境を次のように語る。
「ここ10年ほどで、スタートアップ業界は資金調達をしやすくなり、優秀な起業家が増えました。市場として成熟してきたという実感がありますし、健全な競争の成果として、顧客に対してよりよい品質のプロダクトを届けられるようになってきたと思います」
しかし、その「生態系」のなかで循環しているお金や人材は、社会課題の解決に取り組むソーシャルセクターにはなかなか流れ込んでこないのが実情だ。取り組みの主体となってきたNPO団体などは従来、公的な助成金や補助金に頼らざるをえず、持続可能な働き方や事業の収益性を追求できる環境に恵まれなかった。
「READYFORは、プロダクトを通して、この2つの領域を橋渡しできる存在であり続けたい。また一企業としても、社会性と収益性の両輪を追うモデルケースになれるよう全力を尽くしていきたいです」