クラウドファンディングの先駆者が10年の歳月を経て見つけた次なる可能性とは。
ネット上で資金を集め、さまざまなプロジェクトを実現するクラウドファンディング(CF)。約10年前、この仕組みを日本で普及させる先駆者となったのが「READYFOR」だ。その船出は2011年3月29日。東日本大震災の発生から間もないタイミングとなったのは、まったくの偶然だった。
個人によるTwitter利用が日本で浸透し始めた時期でもある。ネット上は、被害を受けたさまざまな人々の声であふれ返った。代表の米良はるかは振り返る。
「助けを求める声は可視化されているのに、本当に困っている人、それを支えようとする人に対してお金を直接的に届ける仕組みがない。駆け出しの私たちはまだまだ力不足で、もどかしさを感じていました」
その思いが、事業成長の原動力になった。この10年で、法人や医療機関などが資金を募るプロジェクトを約2万件手がけた。集めた金額は累計で約200億円。サイト掲載にあたっては適格性や適法性を慎重に審査し、お金の流れを透明化することで「寄付」へのハードルを下げた。
ひとつの結実といえるのが、20年に実施した「新型コロナウイルス感染症:拡大防止活動基金」だ。CFは個人や企業・団体が主体になり、各自でプロジェクトを立ち上げるのが通例。一方、「基金」はREADYFORなどがハブとなってお金を集め、医療現場など緊急の支援を必要とする先へいち早く流す。最終的に、2万人以上から8億円を超える支援を得た。CFが共感と善意を乗せた金融インフラとして、日本でも浸透しつつある証左と言える。
「私たちのサイトには常日頃から、社会課題を解決したいと思う人たちが集まってきます。それを支えたいと手を差し伸べてくれる人たちとのつながりもあります。いわば『課題解決のプラットフォーム』としての活動を積み重ねてきました」
だからこそ、コロナ禍のような大きな危機に見舞われた際にも「どこでどのような支援が求められているか」といった情報が次々に舞い込んだ。専門家の助言を受けながら、お金を優先的に届けるべき先を的確に判断することもできた。
CFの場合、緊急時には各所で「SOS」が乱立する。支援したい個人にとっては、優先順位の見極めが難しくなる。コロナ禍で「寄付をしたい」と思い立っても、数あるプロジェクトのなかからどこを選んでお金を投じるべきか、迷った覚えのある人も多いだろう。発信力の弱い当事者の声は埋もれてしまいがちな側面も否定できない。
だが米良は、CFの積み重ねによって築いたインフラをうまく応用した。今回の基金は、CFに内在する弱みさえも乗り越える、ひとつのモデルになったわけだ。
「地震をはじめとした災害リスク、少子高齢化に伴う社会保障の支え手の不足──日本はこれから、多くの課題に直面していくことでしょう。『困っている誰かの役に立ちたい』という個人の思いを最大限に生かすことが、サステナブルな社会の実現につながります。そのためのよりよい仕組みを考え続けたい」