ただ、岸田首相は2日、英国・グラスゴーでバイデン米大統領と短時間会った後、記者団に「年内も含めてできるだけ早く(訪米して日米首脳会談を)やる」と語った。松野長官も8日の記者会見では「年内も含めてできるだけ早い」時期に訪米が実現するよう調整していく考えを示した。
当初は「できるだけ早く」と言っていたのに、途中から「年内も含めて」という表現が加わったのはなぜだろうか。複数の政府関係者によれば、岸田官邸は当初、11月中の訪米も辞さないほど、早期の訪米を目指していたという。岸田首相はグラスゴーでバイデン氏と会ったものの、限られた時間で大したアピールにはならなかった。岸田首相が大いに目立ったのは、直前の総選挙での勝利を他の首脳たちから祝福された時ぐらいだった。
早期訪米に向けて気がはやる首相官邸に対し、米国の反応は冷たかった。米側の関係筋の一人は「バイデン政権が置かれている事情、ちゃんとわかっていますか? という感じだね」と話す。米国では15日、バイデン政権が看板政策だった110兆円規模のインフラ投資法案が成立、政権として一息ついた。しかし、米ワシントンポスト紙とABCテレビが14日に発表した世論調査によれば、バイデン大統領の支持率は41%で、就任後最低を記録した。12月3日には、連邦政府の閉鎖を避けるための暫定的なつなぎ予算が切れるため、再びシャットダウンの危機が訪れる。
同筋は「米議会のバイデン政権に対する視線は厳しい。議会対策は本来副大統領の仕事だが、ハリス副大統領には荷が重すぎる。バイデン氏自らが、議会対策にあたらなければならないほど、厳しい局面だ」と語る。「こんなとき、成果もはっきりわからない外国首脳との会談などやったら、何を言われるかわかったものではない」。米政府の厳しい反応が伝わった首相官邸は、「年内も含めて」という表現にトーンダウンしたものの、年内訪米が実現する見通しも全く立っていないのが現状だ。