ビジネス

2021.11.25

シリーズBで驚異の80億円調達。キャディが目指す「製造業の可能性」解放

キャディ代表取締役 加藤勇志郎


踏ん張りどころの多い拡大局面だけに、“指示待ち”の受け身人材では対応が難しいだろう。「社員全員がマルチタスクをこなしている状態です」と、加藤はメンバーの活躍を頼もしく見ている。会社の体幹となる「カルチャーづくり」を重視して投資を行ってきた。

「人材は、自社のカルチャーにフィットしているかが本当に大事だと痛感しています。会社のミッションに共感し、『至誠を貫く』などのバリュー(行動指針)を重んじ、当事者意識をもって仕事を楽しめる人。そういう人でないと、半年くらいたってうまくいかないことが多い」。

「敵対的」はチャンスの裏返し


「至誠を貫く」というバリューは、創業前の自身の経験をもとに打ち出したものだ。加藤は、大学を卒業してマッキンゼー・アンド・カンパニーに新卒で入社。コンサルタントとして巡りあったのが調達の世界だった。「最初はものすごく嫌われました。大学を出たばかりの若造が、30年以上も調達をしてきた人たちにコスト削減を提案する。おこがましいと思われるわけです」。

各社の調達部門には業界でも名を知られる「ドン」と呼ばれるような大御所がいて、部下を守ろうと外部のコンサルタントには厳しくあたるという。怒鳴られたこともしばしばで理不尽な目にも遭ってきた。だが加藤は、「毎日クライアント先に夜中まで残り、翌朝も早く訪問する。そのたびに設計の段階にも踏み込むような提案を繰り返して、正しいことを主張し続けると、認めてもらえることも増えていきました」と振り返る。これが原点となった。

エモーショナルな側面がある世界だからこそ、胸襟を一度開いた相手は親身になって世話をしようとする。家族ぐるみで食事をすることも増えた。創業しても味方になり、面倒を見てくれたのは、こうしたベテランたちだった。

「営業で訪問した相手が、最初は敵対的だとわかると、『これはチャンスが大きい』といまは思いますね。認めてもらえば、長い付き合いができるとわかっていますから」。こうした姿勢が共通の価値観としてメンバーに広がっていることが、プロダクトというテクノロジーを超えたキャディの強みになっている。

「毎日のように何か失敗し、その対応に追われながら会社を回しているような状況ですよ」と謙遜する加藤。しかし、その瞳に迷いはみじんも感じられない。「僕は悲観的なことをちゃんと考えられる楽観主義者なんです」と冗談げに話しながら最後にこう言い放った。

「巨大で魅力的な市場があって、時間はかかるかもしれないけれど、50年先には絶対に変わることがわかっている。そして、そこに志をもった優秀なメンバーが集まっている。この3つがかけ合わさっていれば、中長期的には絶対に波を起こすことができる。それが僕の人生最大のベット(賭け)であり、正しい方向に向かっていると確信しています。だから、小さな失敗なんて気にしない」。

文=三河主門 写真=平岩 享 ヘアメイク=内藤 歩 プロップスタイリング=ORIN

この記事は 「Forbes JAPAN No.089 2022年1月号(2021/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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