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2021.11.25

世界中にファン5000万人。VTuber「ホロライブ」が急成長する理由

発売中のForbes JAPAN2022年1月号の特集「日本の起業家ランキング2022」でTOP20に選出されたカバーの谷郷元昭。

同社が運営するVTuber事務所「ホロライブプロダクション」が世界中で急速にファンを増やし続ける理由とは。


アニメ調のキャラクター姿で動画を配信するVTuber(バーチャルユーチューバー)。新規参入が相次ぐこの領域で、快進撃を続けているのが、「ホロライブプロダクション」を運営するカバーだ。2017年9月に初のバーチャルアイドル「ときのそら」がデビューして以降、所属タレント約50人の累計チャンネル登録者数は5000万人を突破。その影響力が注目され、最近ではローソンや日清食品など大企業とのコラボレーションも増加している。

コロナ禍の巣ごもり生活で、人とのつながりに対するニーズが拡大したことは、視聴者とのチャットを通じた双方向のやりとりが特徴のVTuberにとって追い風となった。しかし、ホロライブが支持される理由はそれだけではない。強みは圧倒的な高品質。タレントの人気を左右するキャラクターのイラストには、世界的な人気を誇るゲームやアニメで活躍しているトップレベルのイラストレーターを起用。さらに、3Dモーションキャプチャを完備したスタジオを設け、キャラクターの顔だけでなく、体全体を使った動きをリアルに表現する演出を実現している。

エンタメ産業では、著作権保護の観点からコンテンツの二次創作は厳しく制限されることが多いが、ホロライブでは独自にガイドラインを設けて、所属タレントのキャラクターが登場するイラストや漫画、コスプレ衣装の製作や展示など、二次創作を奨励している。タレントが投稿した動画の翻訳を行う活動も活発で、これが海外でのファン獲得に一役買っている。英語圏向けのタレント「がうる・ぐら」は、チャンネル登録数354万人(21年11月時点)とVTuberでは世界1位を誇る。

だが、CEOの谷郷元昭は「非常に厳しい起業だった」と振り返る。もともとVRのゲームで16年に創業したが、当時、VRは黎明期で鳴かず飛ばず。17年にはVR技術を活用した動画配信としてVTuber路線にかじを切ったものの、こちらも市場の形成前だった。「ときのそら」のデビュー以降、地道にファンを増やしていったが、「月商5000万円を超えてからも、VCさんからはなかなか相手にしてもらえず、資金ショートしかけたこともある」。

ターニングポイントは、20年1月に東京・豊洲で開催した初のコンサートだ。総勢23人のタレントをコラボさせたこの催しは、会場に約3000人を集客、ライブ有料配信は国内外で数万人が視聴する大成功を収めた。「まるでジェットコースター。資金調達が本当に厳しくて死にそうになっていたところから、ライブが大成功して一気に人気が爆発しました」。20年5月に完了したシリーズBの資金調達は、結果的にほぼ手をつけずに残った。

谷郷は、すでに次の波を見据えている。仮想三次元空間「メタバース」だ。「バーチャルのタレントにとどまらず、ゲームやライブ空間などのバーチャルな世界そのものを開発して、タレントとファンが同じ空間でより密につながれる新しい体験を提供していきたい」。

文 = 中沢弘子 写真=佐々木康

この記事は 「Forbes JAPAN No.089 2022年1月号(2021/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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