株価は将来のコスト増への懸念も織り込んでいるとみられる。筆者が勤務する大学で担当するゼミには、居酒屋でアルバイトをしている学生が多い。彼らに話しを聞くと、来店客が急に戻り始めたため、週末はどこも大忙し。コロナ禍で店側がアルバイトの人数を絞った結果、人手不足の状態に陥っているという。
売り上げは感染拡大前の水準を依然下回るが、繁忙感は拡大前よりも大きい。ある学生は「(店側の受け入れ態勢が変わらないのであれば、)Go To イートキャンペーンの延長などは勘弁してほしい」と本音を漏らす。
居酒屋にとってはこれからが年末の書き入れ時。このまま感染者数の減少傾向が続くようだと、アルバイトなどの人数を増やす必要に迫られる店が相次ぐかもしれない。足元は食材の仕入れ価格も上昇。人件費負担が増せば、ダブルパンチになる。
問題はメニューへの価格転嫁などでコストアップ分を吸収できるか否かだ。店舗間の競争は激しく、値上げをするのは容易でない。店の売り上げは客数と客単価の掛け算。値上げに踏み切ることができれば、客単価を押し上げる半面、来店客数減につながるリスクがあるのは自明の理である。
むろん、「“リベンジ消費の恩恵に浴する”との期待が低くなっているため、業績面での立ち直りが確認できれば、“ポジティブ・サプライズ”と受け止められる可能性が高そう」(ストックボイスの岩本秀雄副社長)。それだけに、各社が公表する月次の既存店売上高などの数字はチェックしておきたいところ。ただ、メニューの価格を据え置いたままで、収益を本格的な回復軌道に乗せるシナリオを描くのは可能なのか。
会社どうしで取引されるモノの価格水準を示す企業物価指数は10月に前年同月比8.0%のプラスと40年ぶりの伸び率を記録。一方で、消費者物価の上昇は鈍く、企業の価格転嫁が進んでいない現状を映し出す。株式市場では「値上げ力」を物差しに、投資対象を選別する動きが進んでいるようにも見える。
連載 : 足で稼ぐ大学教員が読む経済
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