食材の壁を越えて。パリで腕を磨いたシェフが京都でつくるフランス料理

古賀隆稚シェフ(左)と「ル・サンク」のクリスチャン・ル=スケール氏(右)


これまで、東京やパリなどの都心で働いてきた古賀シェフにとって、農園からの野菜で料理を作るのは夢だった。「野菜をもっと知りたい」と、半年間、週に2度ほど樋口農園に通い、農園を手伝った。雑草をとり、野菜を洗い、袋詰めをした。

「雑草取りも、自分ではちゃんと綺麗にできたと思っても、樋口さんから見ると十分ではない。そんな徹底した職人仕事に感銘を受けた」

そうして築き上げた信頼関係で、週に一度、スタッフと共に農園に出かける。それだけではなく、お任せメニューの予約が入った時は、いつもより早く家を出て野菜を摘みに行く。そうこうしているうちに、その時に畑にある野菜で、自然に野菜が主役の料理が生まれてきた。



筆者が訪ねた8月には、自ら朝摘んできた黄色と白のとうもろこしの冷製スープ。収穫から2時間でスープになっているという鮮度、とうもろこしだけというのが信じられないほどの自然な甘味と共に、しっかりとした香りも感じられた。

お任せコースの中でシグネチャーの前菜として知られるのが、「ブラッスリー」の目の前に広がる回遊式庭園「積翠園」から自ら摘んできた季節の草花をあしらった「テラリウム」。庭の自然をミニチュアにして、両掌に乗るようなサイズのガラスの器に写し込んだような、季節感あふれる一皿だ。



この日は、トマトとタコ、フェタチーズにバジルと竹炭のスポンジを合わせた一皿が提供された。天井の高さに合わせて作られた大きな窓からの自然の息吹を感じながら、季節の味をいただく。秋は紅葉も見事で、テラリウムの中身も、それに合わせて変わっていくという。

他のメニューもご紹介していこう。



オーダー毎に〆て焼き上げるオマール・ブルーは、鮮度を生かした軽い火入れ。ライムの酸味に、空芯菜を合わせるという、少しアジアの雰囲気を感じるエキゾティックなひねりを加えつつも、オレンジとサフランのフォームで、フランス料理のバランスに引き戻している。

甲殻類の香りのする皮目を炭であぶってから、フライパンでカリッと焼き上げた見事な一本釣りして神経〆をしたキジハタは、パプリカの甘味とほろ苦さを生かした日本米のリゾット、ノイリー・プラットを加えたブールブランのフォームを添えて。クラッシックな組み合わせをひねって、暑さの残る時期にふさわしい仕立て。



クラッシックに基づいたフランスの味に、自分ならではのアイデアを重ねた料理は、古賀シェフの真骨頂だ。
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文・写真=仲山今日子

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