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2021.12.01 16:00

事業拡大のために新たな人材採用を。会社と社員のカルチャーフィットってどうすればわかる?

日々向き合わなければならない課題を経営者同士で共有し、手を取り合って解決に導く「お悩みピッチ」。2020年よりスタートした本企画、2021年6人目のお悩み人は、脱炭素をテーマにしたクライメートテックビジネスを手掛けるアスエネ株式会社の西和田浩平さんです。

創業前から描く世界進出に向けて着々と事業を拡大させ、さらなる飛躍のために新たな人材を採用しようとしています。そんなときに会社と社員の相性、いわゆる「カルチャーフィット」をどう見極めればよいかという思いが頭をもたげたのです。




お悩み「世界進出を目指すには事業規模の拡大が必要。人材採用ってどうしたらうまくいく?」





2019年10月に設立されたアスエネ株式会社は、CO2ゼロ×地産地消の再生可能エネルギー電力を販売するクリーンエネルギーサービス「アスエネ」と、企業のCO2排出量を“見える化”クラウドサービス「アスゼロ」を2本柱に、日本から世界へと勝負しようとしているベンチャーです。

そんな同社を率いるのが、今回のお悩み人である代表取締役CEOの西和田浩平さん。現在約30人体制(業務委託など含む)で会社を運営していますが、さらに事業を拡大していくために、人材を拡充したいと考えています。ただ、採用面接をしても、仕事で見せる本当の能力や、会社とその人の相性がよいのかを判断するのが、思いのほか難しいと感じているそうです。

発端となったのが、創業当初に採用した社員が最近退職したことでした。当時の面接ではお互い好印象でコミュニケーションはよかったものの、実際の働くスタンス、カルチャー、重要視するバリューが合わなかったことを理由に、お互いに話し合いを重ねた上で会社を退職していただきました。「ある程度会社とマッチしないケースが出てくることは仕方ないが、会社にとっても、採用される社員にとってもお互いによくない」と感じた西和田さんは、それ以来、社内合宿で改めてValuesを徹底議論した上で採用ではカルチャーフィットを強く意識するようになったのです。

しかし、面接で何を見ればカルチャーフィットするかどうかを判断できるのか? 通常の面接だけでよいかなどさまざまな方法を考えたものの確信には至らず、先輩方の知恵を借りるべく西和田さんはお悩みピッチの門をたたきました。

そんなお悩みを聞いたお助け隊からは、「同じように悩み続けています」という声が上がりながらも、それぞれの成功と失敗の経験が共有されました。人材採用の前提や面接のテクニックなど数々のヒントがシェアされた先には、組織をつくるために「リーダーが考えるべきこと」が見えてきました。


スキルよりもカルチャーフィットを優先せよ





「まずは、会社に合う人材を、どう見つけているのか聞いてみたいですね」とファシリテーターを務める齋藤潤一さんが、株式会社大都の山田岳人さんに声を掛けました。

山田さん
「会社を始めたころから、組織は『人』だと思っていました。目指す未来を全員で共有し、その未来をつくるための戦略を練って、その戦略を実行できる組織をつくる。これを徹底的に考えました。いわゆる、『ミッション・ビジョン・バリュー』をしっかり作り、流れを明確にすると、どういう組織が必要なのかがはっきりしましたね」

株式会社大都の3代目代表取締役を務める山田さんは、もともと工具の卸問屋だった会社をDIY用品のECトップ企業にまで成長させました。後継ぎだったために、事業も人も選べない。スタート時の組織づくりには苦労したと続けます。

山田さん
「2015年に初めて資金調達をしたとき、次に進まなくてはという焦りもあって、『ミッション・ビジョン・バリュー』と言いながらも、足りない部分を埋めるために“スキル採用”をしたんですよ。当時は管理部門が補えるよう、監査法人に勤めていた人を引き抜いたんですけど、どうしてもカルチャーが合わなかったんです。いろいろと考え抜いて、話し合いもした結果、退職していただくことになりました」

主にヘルスケア、デジタルヘルス分野のベンチャーやスタートアップを見てきたSBIインベストメント株式会社 CVC事業部長の加藤由紀子さんからは、投資家から見た組織の在り方が共有されました。

加藤さん
「カルチャーフィットは、やっぱり大前提なんだと思うんです。それほど高い条件を出せない中で働いてもらうことが多いですし、その上で事業を進めている目的の共有もされていないと、すぐに崩壊してしまうと思うんですよ」

山田さん
「「先ほどと同じ時期、30人の社員がいる会社に、1年間で30人も採用したことがあったんです。でも、会社の中で会社批判をしちゃうようなカルチャーの合わないメンバーがたくさん入っちゃって。そのときは完全に崩壊しましたね」

加藤さん
「それに、取締役同士でもいざこざがあったり分裂があったり。だから取締役候補にするなら最低限でも本当にカルチャーが合っていることを肌で感じられるような人じゃないと。いろいろなスタートアップを見ていて、そう感じています」


手助けになるミッション・ビジョン・バリューのチェックシートで見極めよ





会社の経営において、ミッション・ビジョン・バリューを定めるのは経営陣の仕事でしょう。多くの会社が掲げていますが、これをどう採用に落とし込んでいくのでしょうか。

「まだカルチャーを考えている段階」としながらも、アレルギー対応をITでサポートする株式会社CAN EATの田ヶ原絵里さんが、うまく運用できている採用方法を教えてくれました。

田ヶ原さん
「私の会社って、まだバリューが固まっていない状態なんです。だから、本採用前に一定期間働いてもらい、『報酬以上に仕事をしようとする人』や『自分の価値を上乗せして見せようとする人』など意欲のある人に正式な仲間となっていただくようにしています」

西和田さんと同時期に創業した田ヶ原さんも、普通に面接をすると誰もがやる気に満ちあふれ、とても優秀に見えてしまって判断が難しいと感じているそうです。それを解決するためにとったのが「お試し採用」でした。

田ヶ原さん
「とはいえ採用までに余裕があるときしか使えないので、通常の面接も続けています。ただ、そこでは必ず『明日からこのポジションに入ってもらったとしたら、何をしますか?』と聞いています。入社後に即戦力となってくれる方の考え方がわかりますし、そこで会社の方針と合わない新規事業をつくろうとしちゃう人は合わないかなと思っています。答え次第で、カルチャーフィットみたいなところが見えてくるんです」

空きスペースを荷物の預かり所にしたシェアリングサービスを展開するecbo株式会社の工藤慎一さんは、自身が採用時に意識していることを教えてくれました。

工藤さん
「カルチャーフィットを見極める観点って、大きく2つあるのかなと思っています。ミッション・ビジョン・バリューがあるのが大前提ですが、1つ目は肌感覚にはなってしまうものの、社員が150人を超えるまでは社長と相性がいいかどうか。2つ目がすごく重要で、組織と相性がいいかどうか、です」

Uberの日本法人立ち上げに携わった経験も踏まえて、工藤さんが自社で用いているのがカルチャーフィットを見極める「チェックシート」というもの。詳細は示せないと言いつつも、大きな枠組みを教えてくれました。

工藤さん
「ロール(役割)などいくつかの項目が設けられていて、面接をしながら点数を付けていくんです。各項目で解像度の高い定義がされていることが大前提です。この定義ができていないまま採用してしまうと、会社と採用した人それぞれにマイナスやズレが生まれてしまいます。本当は能力があるのに社内ではポテンシャルを開放できず、互いに合わなくなり、退職に至ってしまったケースも多く目にしました」

チェックシートの話を聞いて、西和田さんは「当社だとバリューで9つ掲げているんですが、何項目ぐらいでチェックするといいのでしょうか?」と工藤さんに問いかけました。

工藤さん
「項目がたくさんあると解像度が高く見えるんですけど、一方で運用コスト、つまり浸透コストがすごくかかってくると思うんです。たとえ役員でも、急に9つのバリューを全部言えって言われたらなかなか難しいじゃないですか。なので、社内オペレーションをいかに回せるかを考慮するのは大切だと思います。面接で紙にチェックボックスをつくって、その場ですべてチェックできるかっていう実務面から考えるのもいいんじゃないでしょうか。磨き上げていくと、いくつかはまとめられるかもしれないですよね」


合う・合わないの前に、人に伝わるカルチャーづくりを徹底する





ファシリテーターの齋藤さんが、「自分の抱えていた悩みと今の気持ちはどうですか?」と問いかけると、西和田さんは新しい人材のカルチャーフィットを考える前に、会社の前提部分を顧みるようになったようです。

「ミッション・ビジョン・バリューの徹底。形式的なものではなく、経営陣を中心に本質的に腹落ちさせて、それを社内に浸透させる運用をもっと心がけたほうがいいんだろうなと思いました」

お悩みピッチ参加の少し前に、西和田さんは会社の主要メンバーで合宿を行っていました。そのときにバリューは掘り下げつくしたと考えていましたが、「ミッションを含めてもっと深める必要があった」と振り返ります。

「それに、バリューの数が多すぎると運用しにくいっていうのはおっしゃる通り。人に伝わりやすいものにしていけるよう、強く意識したい」とも。

西和田さんはピッチの数日後、「日々のオペレーションに忙殺される中で、新たな視座・視点に触れられたことが、事業前進のモチベーションにもつながった」とメッセージを送ってくれました。世界への挑戦に向けて歩みを進めているようです。

***

第6回セッションを受けて、お悩みピッチを主催するアメリカン・エキスプレス 須藤靖洋 法人事業部門副社長/ジェネラル・マネージャーは、「当社でも採用は、一番大切かつ一番難しいところ。採用を続けてきて気づいたのが、社員の紹介のケースはカルチャーフィットしやすいということです。会社をよくわかっている人が紹介してくれる人の意見は、信頼できますよね」と、500人以上のチームを率いるリーダーとしての経験をシェアしてくれました。

Forbes JAPANの藤吉編集長には、「『社員を放置するな。自分で採用したのなら、あなたの子どもじゃないか』って言われたことを思い出しました。社員は家族と考えるのが重要だとよく言われますが、価値の共有って家族と思えばこそできるんだなと、あらためて感じました」と、採用する当事者としてお助け隊の言葉の数々が深く刺さったようです。

アメリカン・エキスプレスの採用ページには、「認め合い、耳を傾け、支援する」という言葉が記されています。会社はなんのために、誰のために人が集まり、組織されるのか。お悩みピッチが経営者の数だけあるその答えを探れる場となるべく、Forbes JAPANとアメリカン・エキスプレスは経営者同士の助け合いが広がっていくことを心から願い、これからもサポートしていきます。

第6回のお悩みピッチをビジュアル化すると…

▶︎「お悩みピッチ2021」特設サイト&これまでの「お悩みピッチ」はこちら

【お悩み人】

西和田 浩平 氏(アスエネ株式会社 Co-Founder 代表取締役CEO)
慶應義塾大学卒業後、三井物産にて主に日本・欧州・中南米の再生可能エネルギーの新規事業開発・投資・M&Aを担当する。ブラジル赴任時に伯分散型電源企業Ecogen Brasilに出向、ブラジル分散型太陽光小売ベンチャー出資実行、ブラジルエネマネ企業M&A、メキシコ太陽光入札受注、日本太陽光発電ファンド化・売却、ロシア分散型風力発電事業などを経験。ブラジルEcogen出向の経験、世界と日本の再エネ業界のギャップに問題意識を感じて、アスエネ株式会社を創業。カーボンニュートラルな社会を目指し、グリーンテクノロジーを生かした事業を展開している。

▶︎アスエネ

【お助け人】
山田 岳人 氏(株式会社大都 代表取締役)
リクルートフロムエー(現リクルート)を経て98年、結婚を機に義父が経営する大都に入社。2002年にEC事業を立ち上げ、11年に3代目として代表取締役に就任。「SMALL GIANTS AWARD 2018」でセカンド・ローンチ賞を受賞。社団法人日本DIY協会が認定する「DIYアドバイザー」の資格を持つ。
▶︎大都

加藤 由紀子 氏(SBIインベストメント株式会社 執行役員 CVC事業部長)
アイエヌジー証券会社投資銀行本部にてコーポレートファイナンス業務に従事後、2002年、SBIグループのバイオ・ヘルスケア専門VCバイオビジョンキャピタルの立ち上げに参画。2005年にSBIインベストメントに転籍後、投資部門にて国内外のベンチャー投資育成、経営支援等に携わる。2015年、「Forbes JAPAN」の「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング」で、1位に輝いた。

工藤 慎一 氏(ecbo株式会社 代表取締役社長)
Uber Japanの立ち上げを経て、2015年6月ecboを設立。2017年1月、店舗の空きスペースを、荷物の一時預かり所にする世界初のシェアリングサービス「ecbo cloak」の運営を開始。ベンチャー企業の登竜門「IVS Launch Pad 2017 Fall」で優勝。2019年9月に、Amazonと提携し、店舗の空きスペースで宅配物を受け取るサービス「ecbo pickup」の運営を開始。
▶︎ecbo
 

田ヶ原 絵里 氏(株式会社CAN EAT 代表取締役CEO)
アレルギー対応食アドバイザー・中級食品表示診断士。母の米アレルギーをきっかけに、アレルギーがある人の外食を快適にするITサービス「CAN EAT」を起業。外食企業で誰でもアレルギー対応を正確に実施するためのITサービス開発運営ほか、アレルギー対応の評価認証委員、ホテルや婚礼業界のアレルギー研修を担当。
▶︎CAN EAT

【2021年お悩みピッチファシリテーター】

齋藤 潤一 氏(一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 代表理事/AGRIST株式会社 代表取締役 兼 最高経営責任者)
米国シリコンバレーの音楽配信会社でクリエイティブ・ディレクターを務めた後、帰国。東日本大震災を機に「ビジネスで地域課題を解決する」を使命に地方の起業家育成を開始。2017年に宮崎県児湯(こゆ)郡新富町役場が観光協会を解散し、一般財団法人こゆ地域づくり推進機構を設立する。
▶一般財団法人こゆ地域づくり推進機構
▶︎AGRIST


そう、ビジネスには、これがいる。
アメリカン・エキスプレス

Promoted by アメリカン・エキスプレス / Text by 中村大輔 / Infographic by 渡辺 祐亮, cocoroé / Edit by 千吉良美樹