今改めて考える「よく噛んで食べなさい」の意味

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が:ガンの予防 


唾液に含まれる酵素には、発がん物質の発がん作用を消す働きがあるといわれています。

い:胃腸快調


よく噛むことで、食べ物が唾液と混ざり合い飲み込みやすくなり、胃や腸で消化されやすくなります。唾液に含まれる消化酵素アミラーゼの働きにより、体内での消化や吸収をよくし、胃腸の働きを活発にします。

ぜ:全身の体力向上


噛むという行為は、運動能力や身体の様々な機能の発達にも影響するといわれています。また歯並びが良いと噛み合わせがよくなり、しっかり食いしばれるので「ここ一番」で力を発揮しやすくなります。

人間の「味わうという行為」を奪う?


「ひみこの歯がいーぜ」を知ると、咀嚼の重要性を再認識できますが、現代の食事は随分柔らかく、噛み応えが少なく、味の濃いものが多くなっているのが現実です。実際、レストランなど飲食の現場でも、やはり柔らかいお肉が好まれますし、一口で食べられるものや、泡やムースなどが流行っています。



僕の店でも以前は同じ傾向にありましたが、今は咀嚼回数が増えるように、umamiの相乗効果を引き出したり、食材の切り方を工夫したりして、全体的に優しい味わいを意識しています。

よく噛むようにするというのは、単に噛みごたえのある食べ物を取り入れようとか、硬いものを食べようということではなく、「食材に味をつける」のではなく「素材の味を引き出す」調理をし、それを時間をかけて嗜む習慣を身につけようという提案でもあると思います。

味付けの濃い加工食品やファストフードなどへの食習慣の変化は、添加物や栄養素など偏りなどの問題だけではなく、ゆっくり味わうという行為さえも奪いかねません。

これからさらに少子高齢化が進んでいく日本において、高齢者の食事が、味わいも噛みごたえのない介護食になっていくということがどれだけ危険か。そして、子供たちの食事がインスタントやレトルトなど、調理済み食品ばかりになっていくことにどんなリスクがあるのか。



社会で暮らすうえで「身嗜み」はもちろん大切ですが、心身の健康のためには「味嗜み」も非常に大切です。

少しずつ寒くなり、鍋料理が美味しくなる季節。大勢で、さまざまな食材の味が滲み出た鍋を囲むのは、食事の時間や味わいについて考えるいい機会になるのではないでしょうか。

文=松嶋啓介 写真=Getty Images

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