五輪アスリートから学ぶこと


アスリートの世界では、例えば、走り高跳びで2メートルを飛べる選手が、毎日、1.8メートルを跳び続けたならば、何が起こるか。

確実に力が落ちていく。

これは、ビジネスパーソンも、同様。100の力を持つビジネスパーソンが、毎日、70~80の力で仕事をしているならば、確実に力が落ちていく。120に挑戦し続けるからこそ、力は伸びていく。

そして、アスリートとビジネスプロフェッショナルの世界には、決定的な違いが、一つある。

それは、アスリートの肉体的スタミナは、40歳前後を過ぎると落ちていくが、人間の知的スタミナは、60歳を過ぎても、まだ大きく伸びていく。

そのことは、60歳を過ぎても、ピカソが、あの旺盛な創作を続けたこと、ルービンシュタインが、あのピアノ演奏を行ったこと、ユングが、あの膨大な著作を遺したことを見れば、分かる。

されば、我々ビジネスプロフェッショナルの道を歩む人間は、自らに問うべきであろう。

この一週間を振り返って、自分の力の120%に挑戦した時間が、どれほどあったか。

もし、それが無ければ、どれほど『プロのスキルを掴む』『達人の技を学ぶ』などの本を読んでみても、その基礎体力=知的スタミナの欠如ゆえに、一流のプロにも、達人にもなれないだろう。

もし、我々の心に「なれる」という幻想があるならば、その安易な発想こそが、プロフェッショナルとしての成長の最大の障害になる。

「敵は、我にあり」

その言葉は、アスリートの世界で、しばしば使われる言葉。しかし、それは、ビジネスプロフェッショナルの世界も、全く同様。

オリンピックを見て、我々は、何を学ぶのか。

ただ、メダルの獲得に一喜一憂し、「勇気をもらった!」と、感動するだけでは、寂しい。

観客ではなく、プロフェッショナルの眼差しで見るならば、彼らの姿から、学ぶべきものがある。


田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)Global Agenda Council元メンバー。全国6900名の経営者やリーダーが集う田坂塾・塾長。著書は『運気を磨く』『直観を磨く』『知性を磨く』など90冊余。

文=田坂広志

この記事は 「Forbes JAPAN No.086 2021年10月号(2021/8/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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