迅速な本人確認がもたらす様々な恩恵
日本で住民票を持つ人が、居住自治体に申請することで発行される「マイナンバーカード(正式名称:個人番号カード)」(※1)。カード表面には顔写真や氏名、住所、生年月日、性別等が記載され、裏面には12ケタのマイナンバーと、「電子証明書」が記録されたICチップがついている。これが、行政手続き等をオンラインで行う際、本人確認書類としての機能を果たす。
マイナンバーカードの普及が進む一方、取得の必要を感じていない人も一定数存在しているようだ。その理由のひとつとして、「本人確認書類ならば運転免許証やパスポートで代替できる」と認識されがちであることが挙げられる。
しかし実際のところ、マイナンバーカードは従来の本人確認書類より使い勝手が良いと言える。顔写真がない健康保険証や住所の記載がないパスポートとは異なり、カードの表面を確認することで確実に本人確認を行うことができる上、マイナンバーも同時に確認できる。そのため、マイナンバーの提示と本人確認が必要な場面では、これ1枚で済むのである。また、運転免許証は「免許」であり、全ての人が保有している訳ではないことに比べ、マイナンバーカードは誰でも無料で取得が出来る点も大きい。
さらに、広い活用幅を持っている。例えば確定申告の手続きをオンラインで行う際、マイナンバーカードを使えば迅速にe-Taxから申告手続きを行うことができ、税務署等に行く手間が不要になる。引越す際は、マイナンバーカードで転出手続きを行えば、「転出証明書」の取得は不要となり、新しい居住地の役所で転入手続きを行う際にマイナンバーカードを提示すればよい。
また、市区町村によってサービス内容は異なるが、住民票の写しや各種課税証明書、印鑑登録証明書といった書類を取得する際、役所まで足を運ぶことなく、コンビニエンスストア等に設置されたマルチコピー機で取得でき、利便性が高い。さらにはキャッシュレス決済サービスにおける本人確認などの手続きでも使え、民間での活用シーンも広がっている。
これらの機能を活用することは、多忙なビジネスパーソンに、時短効率化という多大なメリットをもたらすだろう。
病院での健康保険証提示が「5分」から「10秒」に
加えて今年10月からは、マイナンバーカードの「健康保険証」としての利用が本格的に開始され(※2)、マイナポータル(※3)やセブン銀行ATM等で利用申込が可能だ。申込みをすると、ICチップに格納された電子証明書を活用することにより、医療機関等を受診する際、窓口で直近の医療保険の資格情報がオンラインで確認できる。
これによって期待できる利点のひとつが、待ち時間の短縮だ。窓口にて健康保険証を提示し、受付スタッフが健康保険証の記号番号等を入力し資格確認を行うのが従来の方式だが、マイナンバーカードならば「顔認証付きカードリーダー」に置くだけで完了する。(※4)
一部医療機関等では、このシステムの本格開始に先立ち「プレ運用」が開始されていた。その一機関である日本海総合病院は、山形県・庄内地域に位置する大規模病院(※5)で、病床数626床を有し、一日あたりの外来患者数は1200人を超える。同院の島貫隆夫院長は、マイナンバーカードによる時短効率化を、日々実感していると語る。
「これまで、新患の方々の保険情報登録は手作業による入力方式でした。お一人あたりおよそ5分の受付時間がかかり、ミスも完全に防ぐことは困難でした。しかしカード読み取りならば正確性は万全で、保険確認の所要時間はわずか10~20秒です」
マイナンバーカードがもたらす効果にはさらなる伸びも期待できる、と島貫院長。その理由は、マイナンバーカードの健康保険証利用について、まだ十分にそのメリットを周知しきれていないことにある。
「来院時に健康保険証を忘れて来られた患者さんが、マイナンバーカードをお持ちだったため問題なく受付できた、というケースがあったのですが、ご本人は『マイナンバーカードが使えるとは』と驚いていらしたそうです。こうした方々にも広く知っていただくことで、時間短縮はさらに進むでしょう」
導入以降、受付業務における作業効率も著しく向上した。これは既存の医事会計システムとオンライン資格確認システムが連結された成果だという。
「当院では毎朝5時にオンライン資格確認システムにアクセスし、その日の予約患者1200人の登録されている健康保険証が有効かどうかを確認しています。この一括照会で、約98%の方々は問題なく確認がとれます。確認が取れない残り2%の方々に、実際にカードリーダーにかざしていただき、最新の保険情報を取得することになります。カード単体のみならず、オンライン資格確認というしくみ全体に、大きな意義を感じています」
「マイナポータル」でできるスマートな健康管理
診療における利点も多い。カード読み取り時に「特定健診情報」「後期高齢者健診情報」「薬剤情報」(※6)、および入院時に高額療養費制度を利用する際の「限度額適用認定証情報」を医療機関が参照できるか否かの確認がなされるが、これに同意することで、従来の健康保険証にはないメリットを享受できる、と島貫院長は語る。
「とりわけ意義が大きいのは限度額適用認定証情報でしょう。高額療養費制度は、医療費の全額を支払った後に申請すれば超過分が払い戻されるしくみで、一時的とはいえ、多額の費用を立て替える必要が生じます。入院前に社会保険事務所等に赴いて『限度額適用認定証』を取得する方法もあるものの、仕事が忙しい方や、急な入院の場合はそれも困難です。しかしマイナンバーカードがあればその場で限度額情報が把握できるため、これらの手間がすべて省けます」
過去の特定健診情報等、薬剤情報を医師が確認できることで、患者はより良い医療を受けられるようになる。また、通院や入院の必要がない人にも、有意義な活用法がある。政府が運営するオンラインサービス「マイナポータル」上では、過去の特定健診情報等、薬剤情報、医療費通知情報を随時閲覧できるのだ。
「これは、予防の観点で重要な第一歩です。ビジネスパーソンの皆さんはややもすると健康管理がおろそかになり、生活習慣病を招く危険があります。マイナポータルで健診情報が可視化されることは、生活習慣を変える一つのきっかけになりえます。並行して、現在大きな潮流となっているのが、PHR(personal health record=個人健康記録)。個々人が自身の健康状態や受診歴、毎日の歩数や摂取カロリーなどをデジタル管理できるしくみが、行政・民間双方の連携で整いつつあります。今後こうしたサービスや、患者が指定した医療機関が診療情報を共有するEHR(Electronic Health Record=医療情報連携基盤)がマイナポータルと連結されれば、さらに万全な健康管理ができます。健康寿命の延伸はもちろん、『働き盛りの期間』を延ばす強い推進力となるでしょう」
二重三重に整えられたセキュリティ
デジタル技術に基づく本人確認と、高精度な健康管理を下支えするのは、堅牢なセキュリティだ。マイナンバーカードの所持は個人情報流出の恐れがある、という誤解がしばしば見られる。
マイナンバーカードに搭載されたICチップには税や年金、預金残高のようなプライバシー性の高い情報は記録されない。また不正に情報を読みだそうとするとICチップが壊れるなど、様々なセキュリティ対策が施されている。さらにカードは顔写真入りであるため対面での悪用は困難。万一紛失したり、盗難に遭ったりした場合も、24時間365日体制のコールセンター(0120-95-0178)に電話をすれば一時利用停止ができる。
申請にはオンライン・まちなかの証明写真機・郵送と3つの方法があるが、利便性が高いのはやはりオンライン。スマートフォンを使用する場合は、自治体から自宅に届いた交付申請書のQRコードを通して、申請用WEBサイトにアクセスできる(※7)。パソコンの場合は交付申請書に記載されたウェブサイトに直接アクセス。双方とも画面に従って必要事項を入力し、顔写真を添付して送信すれば申請は完了する。
今後、マイナンバーカードの機能はさらに多様に展開していく。2022年度中には、マイナンバーカードの電子証明書機能のスマートフォンへの搭載が開始され、2024年度末には運転免許証としての利用も可能となる予定。デジタル社会の基盤として、生活の諸場面における快適化・効率化をサポートするマイナンバーカード。社会の最前線で働く多忙な人にこそ、必携の一枚と言えるだろう。
※1 2024年度中に、国外転出後もマイナンバーカード・公的個人認証(電子証明書)の利用が可能となる予定。
※2 対応する医療機関等は順次拡大中。厚生労働省HPに一覧が掲載されている。
(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21669.html)
※3 子育てや介護をはじめとする、行政手続の検索やオンライン申請がワンストップでできたり、行政機関からのお知らせを受け取れたりする、自分専用のサイト。
※4 顔認証の他に、職員による目視や暗証番号でも本人確認を行える。
※5 日本海総合病院公式サイト(http://www.nihonkai-hos.jp/hospital/)
※6 特定健診情報、後期高齢者健診情報:2020年度以降に実施したものから直近5年分(5回分)の情報が参照可能、薬剤情報:2021年9月以降に診療したものから閲覧が可能となり、3年分の情報が参照可能。
※7 2021年3月までにマイナンバーカード未取得者を対象に送付されている。QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標。
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