メダリオンが目指すのは、ストライプがEコマースで成し遂げたような「ソフトウェアの活用によるバックオフィスの効率化」を、医療の世界で実行することだ。バックオフィスが担う管理業務は、消費者(医療の場合は患者)が目にすることは決してないものの、ビジネス上のやりとりには不可欠なものだ。
例えば、医師や看護師、メンタルヘルスカウンセラーなどの医療従事者は、業務を行うためには、診療を受ける患者が住んでいる州で免許を取得する必要がある。米国では、臨床医への免許交付を担う医事委員会が州レベルで150以上存在し、それぞれに特有かつ複雑極まりない規定があることから、各州での免許申請手続きは時として非常に厄介なものとなる。
しかも、免許を手に入れたらそれで終わりではない。医療従事者が州から免許を取得したとしても、報酬を手にするには、何千とある健康保険会社が掲げる条件を満たさなければならない。これらの保険会社も、それぞれに独自の登録ルールを持ち、医療従事者の資格認定のための経歴調査を行っている
「これは、ソフトウェアが解決を得意とする課題だ」と述べるのは、セコイア・キャピタルのパートナーで、GitHub、ロビンフッド、UiPathなどのテクノロジー系企業に投資した実績を持つアンドリュー・リードだ。同氏は、医療インフラが抱える問題についても、同様にソフトウェアによる現代化の好機だと見ている。「現状は、データ管理や業務フロー、自動化に関して問題がある」とリードは指摘する。
ローの推計によれば、メダリオンは過去1年で、延べ10万時間に上る顧客の事務作業を削減することに貢献したという。Eコマース店舗の運営者は、ストライプの助けなしには、売上を手にできない。同様に、デジタルヘルス系のスタートアップは、医療従事者のネットワークとつながらなければ、売上を手にできない。「メダリオンは、事業立ち上げと売上創出のゲートウェイだ」とローは語る。
ローは、最初に立ち上げたプログラム教育のスタートアップ、Pyを2019年にHired.comに売却したのち、自らが取り組むべき次のプロジェクトを探していた。この時に検討していたアイデアの1つが、症例が非常に少ない疾患の診断をクラウドソーシングで行う手段として、ソフトウェアを用いるというものだった。このアイデアは、ニューヨーク・タイムズ紙に「医学ミステリー」についてのコラムを寄稿する、イエール大学教授で医師のリサ・サンダース(Lisa Sanders)に触発されたものだった。