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妖怪経済草双紙


こうした教育の結果が、将来への諦念と社会への無関心、すべてにわたるノンポリ主義を生んだ。ベンチャー精神を叫び、企業内起業家をもてはやしても、大半の若者は決められた(と思い込んでいる)出世コースをいかに効率よく歩むか、に腐心する。この風潮が30年も続いているのだから、日本の競争力など高まるわけがない。

IT革命に乗り遅れ、web社会でも劣後する日本は、いよいよ教育でも負けるのか。

幸い、ここへ来て政府も立ち上がりつつある。イノベーション戦略や中央教育審議会がSTEAM教育を強調し、今年の骨太の方針がこれを主要施策に位置付けた。遅まきながら、勝負はこれからである。

STEAM教育は国を挙げての総力戦だ。とくに民間企業の理解と関与が不可欠になる。この点、産業競争力懇談会(COCN)の存在は心強い。東京大学の藤井輝夫総長をリーダーに多方面のメンバーが名を連ねる。産業界からは日本を代表する事業会社38社が参画している。STEAM教育のプラットフォームたらんとする試みだ。

日本版STEAM教育では、創造性と複眼的・俯瞰的見方の醸成、個性の尊重、答えのない課題への挑戦、そしてワクワク感と学ぶ楽しさを重視し、文理融合で分野横断的な教育コンテンツのラインナップを急ぐ。企業は、児童・生徒に最先端の技術現 場を体験させ、畳の上の水練を排する役回りである。将来への明るい展望を開く場としても期待されている。

地球環境問題、地政学リスク、Society 5.0による社会変革、日本の競争力強化等々、わが国の課題は山積している。その解決は、小手先の対応では無理、腰を据えた教育改革が不可欠である。

STEAM教育への本格的取り組みがその有力な方途だと思う。文系、理系の区別はない。ScienceのみならずArtsも重視する。それも縦割りではなくゴブラン織りのように有機的に展開する心意気だ。

COCNは今秋にも『学びのイノベーション・プラットフォーム』を設立するという。事業会社のみならず金融、サービスなど、あらゆるセクターの積極的な関与に期待したい。

コロナ下でようやく生まれたこの気運。新たな国づくりが始まったと言っても過言ではない。


川村雄介◎一般社団法人グローカル政策研究所代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボード、嵯峨美術大学客員教授などを兼務。

文=川村雄介

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