アマゾン命名の「気候誓約アリーナ」に見た、パーパス・ドリブンな新スポーツ経済圏

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例えば、再生可能エネルギーの調達においては、全米で太陽光発電を手掛けているExcelsior Energy CapitalとUnico Solar Investorsのプロジェクトに参画する形でClimate Pledge Arenaへのソーラーパネル導入を進めている。単に再生可能エネルギーの貰い手になるのではなく、太陽光発電の一翼を担うことで問題解決の一員を目指している。知名度のあるClimate Pledge Arenaが参画すればプロジェクトに弾みがつくのは間違いないだろう。

こけら落としはColdplay、にも一貫したメッセージが




Climate Pledge Arenaのこけら落としはイギリスのロックバンドColdplayのコンサートだったが、これは彼らがネットゼロカーボンのワールドツアー実施を掲げているアーティストであることと無縁ではない。Coldplayは同バンドの環境保全に向けた取り組みをファンに説明する特設サイトを用意しているほどだ。

来場客もパートナーに


志を共にする者としての向き合いは企業やアーティスト(プロモーター)だけではない。Climate Pledge Arenaにはメインコンコースに「Living Wall」と呼ばれる壁面緑化されたスペースが設けられている。長さ60mに及ぶLiving Wallには、32種類約8500の植物が植えられていおり、アリーナというより植物園に来たような錯覚を起こすほどで、その存在感は来場者を圧倒する。

筆者が訪問した際にも多くの来場者が記念写真を撮っていたが、このいかにもインスタ映えするコーナーを作ったのにも理由があるという。「試合観戦中に一度でいいから気候変動について意識を傾けて欲しい」というのだ。


筆者撮影

「パーパス・ドリブン」で拓く新スポーツ経済圏


もともとスポーツビジネスは来場者や視聴者からのアテンションを集めるメディアとして発展を遂げてきた歴史がある。それが過去15年くらいから、企業や社会の課題を解決するツールへと進化し、いわば「メディア・ドリブン」から「イシュー・ドリブン」にシフトしてきた。スポーツの持つ「ボンド(数多くのステークホルダーをつなげる)」や「アンプ(注目度の高さを利用してメッセージを拡散する)」といった見えない資産を活用して企業やNPOをつなげ、企業や社会の抱える課題を解決する持続的な枠組み、「問題解決型経済圏」を創り出したのだ。

Climate Pledge Arenaの誕生により、スポーツの役割がまたさらに一段進化したように感じる。スポーツ施設が環境問題への解決策を募るプラットフォームとなり、意識を高めるハブとしても機能している。

「使命先導型経済圏」とでも言うべき新たなエコシステムを生み出す触媒として、スポーツ組織やパートナー企業の経営者にはこれまで以上に社会における組織本来のパーパス(存在意義)と深く向き合い、それを事業として遂行する強力な起業家精神とリーダーシップが必要になるだろう。


鈴木友也◎トランスインサイト株式会社創業者・代表。1973年東京都生まれ。一橋大学法学部卒、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、米マサチューセッツ州立大学アムハースト校スポーツ経営大学院に留学(スポーツ経営学修士)。日本のスポーツ関連組織、民間企業などに対してコンサルティング活動を展開している。

連載:日米スポーツビジネス最前線

文=鈴木友也 編集=宇藤智子

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